一見、製造業とは無関係に思える海外のアートイベントの求人情報。しかし、その職務内容を紐解くと、現代の工場運営に求められる管理者の役割の本質が見えてきます。本記事では、異業種の事例から、我々製造業の現場管理のあり方を再考します。
はじめに:畑違いの求人情報が示す普遍的課題
先日、オーストラリアのアート関連の求人サイトで「Site & Operations Manager(現場・運営管理者)」という募集が掲載されていました。その業務内容には、「現場でのプロダクション管理」「アーティストの技術的準備の監督」「緊急時対応(消防・警察等)の調達と管理」といった項目が並んでいました。芸術イベントの運営という、我々製造業とは異なる世界の仕事ですが、その役割には、工場の生産現場を管理する上で極めて重要な要素が凝縮されていると言えるでしょう。
生産管理と技術支援の両立
求人内容の「on-site production management(現場でのプロダクション管理)」は、製造業における生産管理や工程管理に相当します。定められたスケジュールと予算の中で、計画通りに成果物(イベント)を作り上げるための管理業務です。これは、工場長や現場リーダーが日々取り組んでいる中核業務そのものです。
興味深いのは、それに続く「oversee artist technical advancing(アーティストの技術的準備の監督)」という項目です。これは、専門家であるアーティストが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、機材の準備や技術的な調整を支援・監督する役割を指します。これを製造現場に置き換えれば、作業者が安全かつ効率的に作業できるよう、適切な治具や工具を準備し、作業標準を整備し、時には技能指導を行う役割と言えます。生産計画を管理するだけでなく、現場の担い手である作業者一人ひとりが能力を最大限発揮できる環境を整えること。この二つが現場管理者の両輪であることが、この求人情報から改めて読み取れます。
日常業務に組み込まれたリスクマネジメント
特に注目すべきは、「Procure and manage emergency services(緊急時対応サービスの調達と管理)」という職務です。イベント運営という、不特定多数の人が集まる場においては、火災や急病人、その他の不測の事態への備えが運営の根幹をなします。そのため、管理者には平時から消防や警察といった外部機関と連携し、緊急時対応計画を策定・管理する能力が明確に求められています。
翻って我々製造業の現場を考えると、安全管理やBCP(事業継続計画)はもちろん重要視されています。しかし、その策定や訓練が、現場の管理業務から少し離れた「専門部署の仕事」と捉えられてはいないでしょうか。本来、現場の安全と生産活動の継続を司ることは、工場長やライン管理者の最も重要な責務の一つです。この求人情報は、リスクマネジメントが日常の生産管理と一体不可分であることを示唆しています。日々の生産活動の中に、いかにして安全確保や緊急時対応の視点を織り込んでいくか。これは、すべての製造現場にとって重要な課題です。
日本の製造業への示唆
この異業種の求人情報から、私たちは製造現場の運営管理について以下の3つの要点を再確認することができます。
1. 現場管理者は「管理者」であり「支援者」であること
生産計画の進捗を管理するだけでなく、現場の作業者や技術者が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、技術的・環境的な支援を行うことも管理者の重要な役割です。現場の声を吸い上げ、働きやすい環境を整える視点が、結果として生産性と品質の向上に繋がります。
2. リスク管理を現場運営の中核に据えること
安全管理や緊急時対応を「特別な活動」と捉えるのではなく、日々の生産計画や工程管理の中に当然のこととして組み込むべきです。現場のリーダーが、最も現場のリスクを理解しているはずであり、その当事者意識に基づいたリスクマネジメントが求められます。
3. 多様な専門性への理解と連携
イベント運営がアーティストや音響、照明など多様な専門家の連携で成り立つように、現代の工場もまた、生産、品質、保全、技術など様々な専門性を持つ人材の協業によって支えられています。管理者は、それぞれの専門性を尊重し、円滑なコミュニケーションを促進するハブとしての役割を果たす必要があります。
業界は違えど、「現場」を動かし、価値を生み出すという点では本質は同じです。時にはこうした異業種の事例に目を向けることで、自らの業務のあり方を見つめ直す良い機会となるのではないでしょうか。


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