全米製造業者協会(NAM)のイベントから、米国製造業の最新動向を読み解きます。AIをはじめとする先端技術の本格的な現場実装と、強靭なサプライチェーンの再構築が、今後の競争力を左右する重要な鍵となりつつあるようです。
米国製造業の今を映すイベント
先日、全米製造業者協会(NAM)がウィスコンシン州ミルウォーキーで開催した「State of Manufacturing Tour」は、現在の米国製造業がどこに焦点を当てているかを明確に示すものでした。コマツの鉱山機械事業部門やロックウェル・オートメーション、食品大手のサルジェント・フーズといった企業のトップが登壇し、主に「AIと先端技術の導入」「サプライチェーンの強靭化」「人材育成と政策」という3つのテーマについて議論が交わされました。
現場実装フェーズに入ったAIと先端技術
議論の中で特に強調されたのは、AI、自動化、IoTといった技術が、もはや未来の構想ではなく、今日の製造現場で活用される「現在のツール」であるという認識です。ロックウェル・オートメーションのCEOであるブレイク・モレット氏は、AIが生産プロセスの最適化、予知保全によるダウンタイムの削減、そして品質管理の高度化に大きく貢献する可能性を指摘しました。これは、単に人手不足を補うための自動化という次元を超え、データ活用によって生産性や品質そのものを飛躍的に向上させようという強い意志の表れと言えるでしょう。
日本の製造現場においても、画像認識AIによる外観検査の自動化や、熟練技能のデータ化といった取り組みは進んでいます。しかし、米国の議論からは、個別の工程改善に留まらず、工場全体、ひいては企業全体のデータプラットフォームを構築し、経営レベルの意思決定に活かそうとする、より包括的なアプローチが主流になりつつあることが窺えます。日本の我々も、部分最適から全体最適へと視点を引き上げ、データに基づいた工場運営を本格化させる時期に来ているのかもしれません。
食品業界に学ぶ、サプライチェーン強靭化の要諦
もう一つの重要なテーマは、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)です。特に、食品メーカーであるサルジェント・フーズのCEO、ルイ・ジェンティン氏は、安全で高品質な製品を消費者に安定的に届ける上で、強固で回復力のあるサプライチェーンがいかに重要であるかを強調しました。NAMの会長も「強力なサプライチェーンなくして、強力な経済なし」と述べ、サプライチェーンが単なるコスト管理の対象ではなく、事業継続と国家経済の基盤そのものであるという認識を示しています。
この視点は、パンデミックや近年の地政学リスクを経験した日本の製造業にとっても、極めて示唆に富んでいます。効率化を追求するあまり、特定の国や地域、あるいは単一のサプライヤーに依存する調達網の脆弱性が露呈しました。今後は、調達先の複数化や在庫の戦略的な配置、国内生産への一部回帰なども含め、コストと安定供給のバランスを改めて見直す必要があるでしょう。サプライチェーン全体を可視化し、潜在的なリスクを洗い出す地道な作業が、企業の持続的な成長を支える礎となります。
技術革新を支える「人」と「政策」
当然ながら、これらの技術革新やサプライチェーン変革を成功させるには、それを担う「人」が不可欠です。イベントでは、先端技術を使いこなすための従業員のスキルアップや再教育(リスキリング)の重要性が繰り返し述べられました。新しい設備やシステムを導入しても、現場の従業員がその価値を理解し、使いこなせなければ意味がありません。技術への投資と人への投資は、常に一体で考えられなければならないのです。
また、経営者の視点からは、政府の政策が事業環境に与える影響の大きさも指摘されました。特に、研究開発投資や設備投資を促進する税制のあり方が、企業の国際競争力に直結するという強い問題意識が示された点は注目に値します。これは、経営者が現場の改善活動だけでなく、自社を取り巻くマクロな環境変化にも常に注意を払い、時には業界として政策提言を行うことの重要性を示唆しています。
日本の製造業への示唆
今回のNAMのイベントから、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたりますが、特に以下の3点に要約できるでしょう。
1. AI・先端技術は「試す」段階から「使いこなす」段階へ:
これまでの実証実験(PoC)のフェーズを越え、具体的な投資対効果(ROI)を見据えた本格導入を加速させる必要があります。個別の工程改善に留めず、工場全体の生産性向上や、サプライチェーン全体の最適化に繋げるという、より大きな視座を持つことが求められます。
2. サプライチェーンを「コスト」から「競争力の源泉」へ:
安定供給能力そのものが、顧客からの信頼を得て、競争優位を築くための重要な要素となっています。自社のサプライチェーンのリスクを定期的に評価し、調達網の冗長性確保やリードタイム短縮など、有事にも揺るがない供給体制を構築する戦略的な投資が不可欠です。
3. 技術と人材は車の両輪:
新たな技術を導入する際には、必ず現場の従業員に対する教育・訓練計画をセットで策定すべきです。経営層は、技術だけでなく「人」への投資にも強いコミットメントを示し、変化に対応できる組織文化を醸成していく必要があります。


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