欧州の一部のエネルギー企業が、再生可能エネルギーへの投資を減速させ、石油・ガスといった従来型エネルギー源への投資を強化する戦略転換の動きを見せています。この地政学的・経済的背景を持つ変化は、日本の製造業におけるエネルギーコスト、サプライチェーン、そして脱炭素戦略に静かな、しかし無視できない影響を及ぼす可能性があります。
欧州で観測されるエネルギー戦略の「揺り戻し」
最近の報道によれば、欧州の一部の主要エネルギー企業において、経営戦略の見直しが進められている模様です。具体的には、これまで積極的に推進してきた再生可能エネルギー分野への投資ペースを緩め、その一方で、石油や天然ガスといった従来型エネルギーの生産拡大に再び資金を振り向ける動きが確認されています。この背景には、エネルギー安全保障への意識の高まりや、短期的な収益性の確保といった経営判断があると見られています。世界的な脱炭素化の大きな潮流の中での、いわば「揺り戻し」とも言えるこの動きは、エネルギー市場の需給バランスや価格形成に影響を与える可能性があり、我々製造業としても注意深く見守る必要があります。
エネルギーコストと調達戦略への影響
日本の製造業、特に多くのエネルギーを消費する素材産業や加工組立産業にとって、エネルギーコストは生産コストを左右する極めて重要な要素です。エネルギー企業の石油・ガスへの投資強化は、短期的には供給量の安定化を通じて価格の急騰を抑制する効果をもたらすかもしれません。しかし、中長期的には、再生可能エネルギーへの移行が遅れることで、将来的な炭素税の導入や排出量取引制度の厳格化といった政策変更が生じた際に、化石燃料の価格が逆に高騰するリスクも内包しています。工場運営においては、エネルギー調達先の多様化や、価格変動リスクをヘッジするための長期契約、さらには自家発電設備の導入といった選択肢を、改めて現実的な視点から再評価する時期に来ていると言えるでしょう。
脱炭素(GX)計画とサプライチェーンの再点検
多くの企業がグリーン・トランスフォーメーション(GX)を掲げ、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減に取り組んでいます。今回のエネルギー企業の戦略転換は、こうした取り組みの前提となる「エネルギーのグリーン化」のペースが、想定よりも緩やかになる可能性を示唆しています。自社の脱炭素計画を進める上で、購入する電力や燃料のCO2排出係数が計画通りに低減していくのか、定期的な見直しが不可欠です。また、エネルギー供給網の変動は、部材や原料を供給するサプライヤーの生産コストにも影響を及ぼします。自社の事業継続計画(BCP)の観点からも、主要サプライヤーのエネルギーリスクを把握し、サプライチェーン全体の強靭性を高めていく視点が求められます。
日本の製造業への示唆
今回の欧州エネルギー企業の動向から、日本の製造業が実務レベルで留意すべき点を以下に整理します。
1. エネルギーコスト管理の高度化:
エネルギー価格の不確実性が増すことを前提とし、調達戦略を見直す必要があります。短期的なスポット購入と長期契約のバランスを再検討するとともに、エネルギー使用量の「見える化」を徹底し、生産計画と連動したデマンド管理の精度を高めることが重要です。
2. 省エネルギー投資の再徹底:
外部環境の変化に左右されにくい強固な経営体質を築く上で、省エネルギー活動の重要性は論をまちません。エネルギー効率の高い設備への更新、生産プロセスの改善、断熱強化といった地道な取り組みの費用対効果が、改めて高まっていると認識すべきです。
3. 現実的なGX戦略の推進:
脱炭素化という長期目標は堅持しつつも、その移行プロセスにおけるエネルギーミックスを現実的に見直す必要があります。化石燃料の使用を前提としながらも、その利用効率を極限まで高める技術開発や、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)のような技術動向にも注視し、実現可能なロードマップを再構築することが求められます。
4. サプライチェーンリスクの継続的な監視:
エネルギーを起点とした地政学リスクは、今後も複雑化・長期化する可能性があります。主要国のエネルギー政策や大手供給元の戦略変更といったマクロな情報を常に収集し、自社のサプライチェーンへの影響を評価する体制を整えておくことが、事業の安定継続に繋がります。


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