米航空宇宙・防衛大手のロッキード・マーティン社が、オーバーン大学の国立積層造形技術センター(NCAME)と提携し、将来の航空機向け部品の開発に着手しました。本件は、最先端分野における産学連携と、積層造形技術(AM)の実用化に向けた具体的な取り組みとして注目されます。
産学連携による先端部品開発の枠組み
米国の航空宇宙・防衛分野をリードするロッキード・マーティン社は、オーバーン大学に設置された国立積層造形技術センター(NCAME)との提携を発表しました。この提携の目的は、積層造形(Additive Manufacturing、AM)技術を用いて、将来の航空機に搭載される部品を開発することにあります。
今回の発表によれば、まず既存の部品をAM技術に最適化する形で再設計(redesign)し、その後NCAMEが保有する設備で実際に部品を製造、ロッキード・マーティン社へ納入するというプロセスが計画されています。これは、企業が持つ具体的な製品ニーズと、大学が持つ最先端の研究開発能力や設備を組み合わせた、オープンイノベーションの好例と言えるでしょう。
鍵となる「積層造形のための再設計(DfAM)」
この取り組みで特に重要な点は、単に既存の部品を3Dプリンタで製造するのではなく、「再設計(redesign)」というプロセスを経ることにあります。これは、積層造形の能力を最大限に引き出すための設計、いわゆる「DfAM(Design for Additive Manufacturing)」の思想に基づいています。
従来の切削加工や鋳造といった工法を前提とした設計では、AMが持つポテンシャルを十分に活かすことはできません。例えば、AMを用いることで、複数の部品を一体化して部品点数を削減したり、トポロジー最適化によって必要最小限の材料で強度を維持する軽量な構造を実現したり、あるいは従来の工法では不可能だった複雑な内部流路を持つ部品を製造することが可能になります。今回の提携は、こうした設計思想の転換が、実際の製品開発において不可欠であることを示しています。
航空宇宙分野で加速するAM技術の実用化
航空宇宙分野では、部品の軽量化が燃費効率に直結するため、AM技術への期待が特に大きいことで知られています。また、少量多品種の部品を効率的に製造できる点や、開発リードタイムを短縮できる可能性も、この分野でAM技術の採用が進む大きな理由です。ロッキード・マーティンのような業界のリーダーが大学と深く連携するのは、AM特有の材料特性の評価や、極めて高い信頼性が求められる部品の品質保証プロセスの確立といった、実用化に向けた高度な課題を解決するためと考えられます。単なる造形技術だけでなく、材料科学、プロセス管理、非破壊検査といった周辺技術を含めた総合的な開発体制の構築が、先端分野での成功の鍵を握っていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の事例は、日本の製造業にとっても多くの示唆を含んでいます。
1. 産学連携による先端技術開発の加速
AMのような急速に進化する技術分野において、すべての技術開発を自社単独で賄うことは困難です。大学や公的研究機関が持つ専門知識や設備を積極的に活用するオープンな開発体制は、研究開発のスピードと質を高める上で極めて有効な手段となります。
2. 設計思想の転換の重要性
AM技術を導入する際は、製造部門だけでなく、設計部門を巻き込んだ全社的な取り組みが不可欠です。従来の工法の制約から離れ、「AMなら何ができるか」という視点で製品設計を見直すことが、付加価値創出の源泉となります。これは、日本の製造業が持つ改善文化や摺り合わせの強みを、デジタル設計の世界で再構築する機会とも捉えられます。
3. 品質保証体制の構築という課題
航空宇宙分野での採用は、AM製品の品質と信頼性をいかに担保するかが実用化の核心であることを示しています。造形プロセスのばらつきをいかに管理し、製品の品質を保証するか。この課題に対する体系的なアプローチの構築は、あらゆる産業でAM技術を普及させる上での共通のテーマです。
4. サプライチェーン変革の可能性
必要な時に必要な部品を製造できるAM技術は、従来のサプライチェーンのあり方を大きく変える可能性を秘めています。金型不要で製造できるため、補給部品のオンデマンド生産や、サプライチェーン寸断リスクへの備えとしても、その戦略的価値は今後さらに高まっていくと考えられます。


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