中国は半導体製造で追いつくのか?米国の規制と中国の現在地

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米中間の技術覇権争いの中心にある半導体産業において、中国の技術的進展が注目を集めています。特に、米国の厳しい輸出規制下で7nmプロセスの半導体が確認されたことは、業界に大きな衝撃を与えました。本稿では、中国の半導体製造技術の現状と課題を整理し、日本の製造業が取るべき視点について解説します。

米国の輸出規制という高い壁

まず前提として、現代の先端半導体製造には、オランダのASML社が独占的に供給するEUV(極端紫外線)露光装置が不可欠です。米国は安全保障上の理由から、このEUV露光装置をはじめとする最先端の製造装置や技術が中国に渡ることを厳しく制限しています。これは、中国が5nm以下の最先端プロセスノードで半導体を製造する上での極めて高い障壁となっています。

7nmプロセスの実現とその実態

そうした状況下で、2023年に中国の通信機器大手ファーウェイ(Huawei)が発表したスマートフォンに、中国のファウンドリ最大手SMICが製造した7nmプロセスの半導体が搭載されていることが判明しました。これは、EUV装置なしに、旧世代のDUV(深紫外線)露光装置を駆使して実現されたものと考えられています。具体的には、回路パターンを複数回に分けて露光する「多重露光(マルチパターニング)」という技術を高度に応用したと見られます。この事実は、米国の規制下でも中国が独力で技術的なブレークスルーを成し遂げる能力があることを示しました。

しかし、この手法には大きな課題が伴います。多重露光は工程が複雑で製造時間が長くなるため、生産効率が著しく低下します。また、重ね合わせの精度管理が非常に難しく、歩留まり(良品率)の低さが深刻な問題となります。結果として、製造コストが非常に高くなり、安定した大量生産には向かないと指摘されています。つまり、限定的な生産は可能になったものの、TSMCやサムスン電子といった世界のトップ企業と商業ベースで競争できるレベルには、まだ大きな隔たりがあるのが実情です。

「成熟プロセス」における中国の台頭

一方で、日本の多くの製造業にとってより直接的な影響があるのは、「成熟プロセス」または「レガシー半導体」と呼ばれる分野です。これは、主に28nmより前の世代のプロセス技術で製造される半導体で、自動車、産業機器、家電製品などに幅広く使われています。中国は政府の強力な支援のもと、この成熟プロセス分野の生産能力を急速に拡大しています。最先端分野で足踏みする一方、汎用的な半導体の国内自給率向上と世界市場でのシェア獲得を着実に進めているのです。

この動きは、世界的な半導体市場に構造変化をもたらす可能性があります。将来的には、中国製の安価な成熟半導体が市場に大量供給され、価格競争が激化することも予想されます。これは、日本の半導体メーカーにとって脅威であると同時に、半導体を部材として調達する企業にとっては、調達戦略の見直しを迫る要因となり得ます。

日本の製造業への示唆

今回の中国の動向から、日本の製造業関係者は以下の点を考慮すべきでしょう。

1. サプライチェーンの再評価と複線化
米中対立の長期化は避けられず、サプライチェーンの分断リスクは今後も高まることが予想されます。特に、汎用的な半導体において中国への依存度が高まると、地政学的な変動が直接的な供給リスクにつながりかねません。自社の製品に使われる半導体の原産国や製造プロセスを改めて把握し、特定国への依存度を下げ、調達先を複線化しておくことの重要性が増しています。

2. 技術動向の冷静な分析
中国の技術開発を過小評価すべきではありませんが、同時にその限界や課題を冷静に分析する必要があります。「7nm実現」というニュースの裏にある、歩留まりやコストといった量産化の課題を理解することが重要です。自社の事業に関連する技術領域において、中国がどの程度の競争力を持っているのか、客観的な情報収集と分析を継続することが求められます。

3. 成熟プロセス市場の変化への備え
中国が注力する成熟プロセス半導体の市場は、今後大きな価格圧力にさらされる可能性があります。これは、我々が日常的に使用するマイコン、パワー半導体、アナログ半導体などの調達環境が大きく変わることを意味します。コストメリットを享受できる可能性がある一方で、品質の安定性や長期的な供給保証といった観点から、調達戦略を慎重に検討する必要があります。

半導体を巡る地政学的な動きは、もはや一部の専門家の問題ではなく、すべての製造業の経営層や現場リーダーが向き合うべき経営課題となっています。自社の事業継続計画(BCP)の中に、こうしたサプライチェーンリスクを具体的に織り込み、備えを進めていくことが不可欠です。

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