韓国において、新型コロナウイルスワクチンの一部で同一の製造番号が共有されていたとの報道がありました。この一件は、製品の信頼性と安全性を支えるトレーサビリティの根幹である「ロット管理」の重要性を、我々製造業に携わる者にあらためて問いかけています。
背景:同一製造番号をめぐる韓国での報道
報道によれば、韓国疾病管理庁(KDCA)が管理する新型コロナウイルスワクチンの一部において、本来は固有であるべき製造番号(Manufacturing Number)が、多数のワクチンで共有されていたことが指摘されました。当局は調査の結果、品質上の問題はないと説明しているようですが、この一件は製品の個体を識別し、追跡可能性を担保するためのロット管理のあり方について一石を投じるものとなりました。
製造業において、製造番号やロット番号は、単なる識別記号ではありません。それは、どの原材料を使い、どのラインで、いつ、どのような条件下で製造されたかという、製品の「履歴書」そのものです。万が一、製品に不具合が発見された場合、この番号を頼りに影響範囲を特定し、迅速な原因究明と市場からの回収といった措置を講じることが可能になります。したがって、その管理の正確性は、企業の品質保証体制の根幹をなすと言っても過言ではありません。
製造業におけるロット管理の役割と実務
医薬品や食品に限らず、自動車部品や電子部品など、多くの製造現場でロット管理は不可欠な業務プロセスです。その主な役割は、大きく分けて二つあります。
一つ目は、先述の通り「トレーサビリティの確保」です。サプライヤーから納入された原材料のロットから、自社の製造工程、そして顧客への出荷ロットまで、一貫して情報を紐付けることで、製品ライフサイクル全体の追跡を可能にします。これにより、品質問題発生時の影響を最小限に食い止め、顧客への説明責任を果たすことができます。
二つ目は、「工程品質の管理」です。特定のロットで不良率が上昇した場合、そのロットの製造条件や使用した原材料、作業者などのデータを分析することで、原因を特定しやすくなります。日々の生産活動の中で品質データをロット単位で蓄積・分析することは、継続的な品質改善活動の基礎となります。
ロット管理の粒度という課題
日本の製造現場においても、ロット管理の「粒度」をどう設定するかは、常に議論となるテーマです。例えば、原材料の入荷単位で一つのロットとするのか、一日の生産分をまとめるのか、あるいはパレット一枚、コンテナ一つをロットとするのか。この設定は、管理コストとリスクのバランスを取る、非常に重要な経営判断です。
ロットを細かく設定すれば、問題発生時の影響範囲を限定でき、廃棄や回収のコストを抑えられます。しかし、その分、付番や記録、保管といった管理工数は増大します。逆にロットを大きくすれば管理は楽になりますが、いざという時の影響範囲が広がり、事業に与える損害も甚大になりかねません。自社の製品特性やサプライチェーンのリスクを総合的に評価し、最適なロットの粒度を設計・運用していくことが、現場の知恵であり、技術者の腕の見せ所とも言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の韓国の事例は、対岸の火事として片付けるべきではありません。自社の品質管理体制を改めて見直す良い機会と捉えるべきです。以下に、我々が取り組むべき実務的な示唆を整理します。
1. ロット管理ルールの再検証
自社で定めているロットの付番ルールや管理単位(粒度)が、現在の事業環境や製品リスクに対して適切であるか、定期的に見直すことが重要です。特に、新規部品の採用や製造プロセスの変更があった際は、ロット管理ルールへの影響を必ず確認する体制が求められます。
2. トレーサビリティシステムの実効性評価
システム上でトレーサビリティが確保されているだけでなく、実際に機能するかどうかを確認することも不可欠です。特定の製品ロット番号から、使用した原材料のロット番号や検査記録を迅速に引き出せるか、模擬的なリコール訓練などを通じて、その実効性を評価し、問題点を洗い出しておくべきでしょう。
3. サプライチェーン全体での情報連携
自社内での管理体制が完璧であっても、サプライヤーからの情報が不正確であったり、顧客への情報提供が滞ったりすれば、トレーサビリティは途切れてしまいます。仕入先から納品される部材のロット情報の受け渡し方法や、顧客へ提出する品質保証書類の記載内容など、サプライチェーン全体でロット情報が正確に連携される仕組みを構築・維持することが、最終的な製品の安全・安心に繋がります。


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