株式会社アクアクラフトが開発した養殖業向け生産管理システムは、製造業、特にプロセス産業が抱える課題解決のヒントを示唆しています。本稿では、異業種の取り組みから、データ活用による属人化の解消と生産計画の高度化について考察します。
はじめに:異業種の取り組みに学ぶ生産管理の要諦
製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中、私たちは自社の業界だけでなく、異業種の先進的な取り組みからも多くの知見を得ることができます。今回は、水産養殖業という、一見すると製造業とは異なる分野で導入が進む生産管理システムに着目します。株式会社アクアクラフトが開発した養殖業向け生産管理システム「uwotech Production Management」の事例は、実は多くの製造現場、とりわけプロセス産業が抱える課題と深く通底しています。
「勘と経験」からの脱却:養殖業が直面する課題
水産養殖の現場では、長年にわたり個々の事業者の経験や勘が生産計画の根幹をなしてきました。日々の給餌量や投薬の判断、出荷時期の見極めなど、多くの工程が熟練者の「暗黙知」に依存していたのです。その結果、作業の属人化が進み、技術の伝承が困難になるという課題を抱えていました。また、生育記録や水質データといった重要な情報が、紙の帳票や個人のPC上の表計算ソフトで管理されることも多く、データの一元管理や横断的な分析が難しい状況でした。これは、食品、化学、素材といったプロセス産業の製造現場において、熟練オペレーターの感覚に頼った工程管理や、部門ごとに散在するデータに悩む状況と非常によく似ています。
データ一元化がもたらす生産計画の高度化と標準化
アクアクラフト社が提供するシステムは、養殖現場における様々なデータを一元的に管理することを目指しています。給餌量、水温、魚の成長記録、薬品の使用履歴といった日々の操業データをクラウド上に集約し、可視化します。これにより、これまで個人の経験則に頼らざるを得なかった生産計画を、客観的なデータに基づいて立案・修正することが可能になります。どの生簀でどのような作業が、いつ、誰によって行われたかという記録が正確に残るため、作業の標準化も促進されます。結果として、生産性の向上や収益性の改善に繋がり、さらにはトレーサビリティの確保という品質保証の観点からも大きな価値を持つと考えられます。これは、製造業におけるMES(製造実行システム)が目指す、生産実績の把握と工程の最適化という考え方と本質的に同じものと言えるでしょう。
変動要因の多いプロセスをいかに管理するか
魚の成長という生物的なプロセスは、天候や水質といった外部環境の影響を強く受けるため、非常に変動要因の多い生産活動です。これは、原料のロットぶれや発酵・培養といった工程を持つ食品・医薬品製造や、触媒の活性度変化などを伴う化学プラントの操業管理にも通じる難しさです。こうした不確定要素の多いプロセスを安定的に管理するためには、日々の状態を正確にデータとして捉え、その変化の傾向を分析し、次の打ち手に繋げるサイクルを回すことが不可欠です。養殖業におけるデータ活用の取り組みは、同様の課題を抱える他のプロセス産業にとって、自社の工程管理を見直す上で示唆に富む事例と言えます。
日本の製造業への示唆
今回の養殖業における生産管理システムの事例から、日本の製造業、特にプロセス産業に携わる私たちは、以下の点を学ぶことができるでしょう。
1. 業種を越えた課題の共通性と解決策の水平展開
「属人化の解消」「データ管理の煩雑さ」「計画精度の向上」といった課題は、業種を問わず多くの現場に共通しています。自社の常識にとらわれず、異業種の先進事例に目を向けることで、新たな解決策のヒントを得られる可能性があります。
2. 暗黙知の形式知化による技術伝承
熟練者の持つ勘や経験といった「暗黙知」を、日々の操業データという「形式知」に置き換える取り組みは、技術伝承問題に対する有効な処方箋となり得ます。データに基づいた判断基準を組織で共有することで、若手人材の育成を加速させ、組織全体の技術力を底上げすることが期待できます。
3. プロセス産業におけるデータ活用の深化
生物や自然物を扱うプロセス産業は、変数が多くデータ化が難しいとされがちでした。しかし、センサー技術やクラウドプラットフォームの進化により、これまで見えなかった工程の状態をデータとして捉えることが可能になりつつあります。自社のプロセスを改めて見直し、どこにデータ活用の可能性があるかを探求することが、次の競争力に繋がります。


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