中国Chery、豪州での自動車生産再開を提言 – 失われた製造基盤の再構築は可能か

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中国の大手自動車メーカーChery(奇瑞汽車)が、かつて自動車生産から撤退したオーストラリアでの生産再開を提言し、注目を集めています。この動きは、グローバルなサプライチェーンが変容する中で、生産拠点のあり方を再考する一つのきっかけとなりそうです。

世界で最も競争が激しい市場の一つ、オーストラリア

オーストラリアではかつて、GM系のホールデン、フォード、そしてトヨタが自動車を生産していました。しかし、高い製造コストや比較的限られた市場規模などを背景に、2017年のトヨタ工場閉鎖をもって、同国の自動車生産の歴史は幕を閉じました。以来、オーストラリアで販売される自動車はすべて輸入車となっています。

その結果、現在のオーストラリア市場は、世界でも類を見ないほどの激しい競争環境にあります。年間約120万台という、日本の4分の1程度の市場規模に対し、70近いブランドが参入し、熾烈なシェア争いを繰り広げているのです。これは、国内に保護すべき自国メーカーが存在しないことも一因と考えられます。

Cheryが提言する「国内生産」という処方箋

このような状況に対し、オーストラリア市場で急速にシェアを伸ばす中国メーカーCheryの幹部が、「メーカーが多すぎる」と指摘し、市場の持続可能性を確保するために国内での自動車生産を再開すべきだと提案しました。これは、単に自社工場の進出可能性を示唆するだけでなく、輸入販売に依存する現在のビジネスモデルが、過当競争による消耗戦に陥っていることへの警鐘と捉えることもできます。

消費地に近い場所で生産を行うことは、物流コストの削減や為替変動リスクの低減、そして何より現地のニーズに迅速に対応できるという利点があります。Cheryの提言は、こうした製造業の基本に立ち返り、市場の健全化を図るべきだという問題提起と言えるでしょう。

生産再開に向けた高いハードル

しかし、オーストラリアでの自動車生産を再開する道のりは、決して平坦ではありません。そもそも、なぜ各社が撤退したのかという根本的な課題、すなわち高い人件費や小規模な国内市場といった問題は、現在も解決されていません。

さらに重要なのは、サプライチェーンの再構築です。完成車工場は、多くの部品メーカー(サプライヤー)の集積があって初めて効率的な生産が可能になります。一度失われたこの産業エコシステムをゼロから再構築するには、莫大な投資と時間が必要です。日本の製造業の現場感覚からすれば、基盤となるサプライヤー網なしに工場を立ち上げることの難しさは、想像に難くありません。Chery自身も、生産再開には政府による強力なインセンティブ(補助金や税制優遇など)が不可欠であるとの見方を示しています。

日本の製造業への示唆

今回のCheryによる提言は、オーストラリア一国の話にとどまらず、日本の製造業にとってもいくつかの重要な示唆を含んでいます。

1. グローバル生産戦略の再評価
地政学リスクの高まりやサプライチェーンの脆弱性が顕在化する中、世界最適地で生産するという従来の考え方を見直す動きが加速しています。消費地に近い場所で生産する「地産地消」モデルの重要性が再認識されており、今回の提言もその潮流の一つと見ることができます。自社の生産拠点の配置が、現在の事業環境に対して本当に最適なのか、改めて検証する価値はあるでしょう。

2. 産業基盤を維持することの重要性
一度失われた製造基盤、特にサプライヤー網や熟練した労働力を取り戻すことがいかに困難であるかを、この事例は示唆しています。短期的なコスト合理性だけで国内生産の縮小や海外移転を進めることのリスクを、改めて認識する必要があります。国内の技術、人材、サプライチェーンをいかに維持・強化していくかは、経営の重要課題です。

3. 新興国メーカーの戦略的変化
中国メーカーが、単に低価格製品を輸出するだけでなく、各国の産業政策にまで踏み込んだ提案を行うなど、より高度で戦略的な動きを見せ始めています。彼らは今や、グローバル市場におけるルール形成にも影響を与えうる存在です。その動向を注意深く分析し、自社の戦略に活かしていく必要があります。

経済合理性とサプライチェーンの強靭化という、時に相反する要素のバランスを取りながら、自社の生産体制をどう構築していくか。オーストラリアで投げかけられたこの問いは、すべての日本の製造業にとって、無関係ではないと言えるでしょう。

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