米国の旅行代理店から「戦略的生産管理(Strategic Production Management)」という職種の求人が出ています。製造業の専門領域であるはずの「生産管理」が、なぜサービス業で求められているのでしょうか。この事例から、生産管理という職能の新たな可能性と、日本の製造業が学ぶべき視点について考察します。
サービス業における「生産管理」の役割
先日、米国の旅行代理店であるBCD Travel社が「シニアプロデューサー、戦略的生産管理」という役職を募集していることが注目されました。製造業の我々にとって「生産管理」は馴染み深い言葉ですが、旅行代理店のようなサービス業でこの言葉が使われるのは、一見すると不思議に思えるかもしれません。
これは、イベントや法人向け旅行プランといった無形のサービスを「製品」と捉え、その企画から手配、実行、完了までの一連のプロセスを「生産活動」と見なしていることを示唆しています。そこでは、製造業で培われてきたQCD(品質・コスト・納期)の管理手法やプロセス改善の考え方が、サービスの品質安定化や業務効率化に不可欠なものとして認識されているのです。例えば、大規模な国際会議の手配を一つのプロジェクトと見立てれば、そこにはサプライヤー(航空会社、ホテル、会場)の選定・管理、予算管理、スケジュール管理、そして当日の運営品質の確保といった、まさに生産管理そのものの業務が存在します。製造業の知見が、業界の垣根を越えて応用される普遍的なスキルセットであることを示す好例と言えるでしょう。
「戦略的」という言葉が意味するもの
この求人において、単なる「生産管理」ではなく「戦略的」という言葉が冠されている点も重要です。従来の生産管理は、与えられた設計や計画に基づき、現場のQCDを最適化するというオペレーショナル(執行的)な側面が強い役割でした。
しかし、「戦略的生産管理」という役職名からは、より上流の事業戦略や経営判断に深く関与する役割が求められていると推察されます。例えば、どの顧客層に、どのような価値を持つイベント(製品)を提供すべきか、そのためにどのようなサプライヤーとパートナーシップを組むべきか、あるいはどのようなITツールやプラットフォームを導入して生産性を抜本的に向上させるか、といった長期的な視点での意思決定を担うことが期待されているのではないでしょうか。これは、日々の生産活動を管理するだけでなく、事業の持続的な成長を支える生産体制そのものを構築する役割であり、現場のリーダーや工場長がまさにこれから目指すべき姿とも重なります。
日本の製造業への示唆
この一見シンプルな求人情報から、我々日本の製造業に携わる者もいくつかの重要な示唆を得ることができます。
1. 生産管理スキルの再評価とキャリアの多様性
現場で培った生産管理、品質管理、プロセス改善のスキルは、製造業の枠を超えて価値を持つ普遍的なものです。自社の業務を「価値提供のプロセス」として捉え直せば、その知見は営業、企画、管理部門、さらには異業種でも活かせる可能性があります。これは、技術者のキャリアパスを考える上でも重要な視点です。
2. 現場から戦略への視点の引き上げ
日々のカイゼン活動はもちろん重要ですが、それに加えて「自分たちの生産活動が、会社のどの事業戦略に、どのように貢献しているのか」を常に意識することが求められます。生産技術者や工場管理者は、単なるコストセンターの管理者ではなく、企業の競争力を生み出す戦略的パートナーであるという自覚を持つことが、今後ますます重要になるでしょう。
3. 求められる人材像の変化
これからの生産管理を担う人材には、IEや品質管理といった伝統的な知識に加え、プロジェクトマネジメント、サプライチェーン全体の知識、さらには財務やマーケティングの基礎知識も求められるようになります。部分最適から全体最適へ、そして事業戦略と連動した生産戦略を立案・実行できる人材の育成が、企業の持続的成長の鍵を握ります。
4. 異業種から学ぶ姿勢
サービス業が製造業の「生産管理」に学んでいるように、我々製造業も、サービス業における顧客体験(CX)の設計や、IT業界におけるアジャイルな開発手法など、異業種から学ぶべき点は数多く存在します。自社の常識にとらわれず、積極的に外の世界に目を向ける姿勢が、新たなイノベーションの源泉となるはずです。


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