海外大手メーカーの求人情報を見ると、製造技術者の役割が、単なる生産ラインの維持管理に留まらないことがわかります。本記事では、設計エラーに起因する生産停止という具体的な課題を取り上げ、これからの製造技術者に求められる役割と、部門間連携の重要性について考察します。
製造現場を悩ませる「設計起因のトラブル」
先日、ドイツの総合電機メーカーであるシーメンス社の製造技術者(Manufacturing Engineer)の求人情報に、示唆に富む一文がありました。その職務内容には「トラブルシューティングと問題解決」として、「設計エラーによる生産停止などの問題を特定し、解決する」と明記されています。これは、製造現場で発生する問題の根本原因が、しばしば上流工程である設計段階に潜んでいることを示しています。
日本の製造現場においても、これは決して他人事ではないでしょう。「この部品は組み立てにくい」「この公差では品質が安定しない」といった問題が発生した際、その原因が設計図面にあったという経験は、多くの技術者がお持ちのはずです。製造現場での工夫や改善活動(カイゼン)には限界があり、手戻りや不良の発生は、コスト増や納期の遅延に直結してしまいます。
製造技術者の役割は「川下」から「川上」へ
従来、製造技術者の主な役割は、設計部門から渡された図面をもとに、いかに効率よく、安定した品質で製品を生産するかの仕組みを構築・維持することにありました。いわば、開発プロセスの「川下」を担う存在でした。しかし、先述のシーメンスの例が示すように、現代の製造技術者には、より「川上」への関与が求められています。
具体的には、製品の企画・設計の初期段階から、生産のしやすさ(生産性)や品質の作り込みやすさといった観点(DFM: Design for Manufacturability)を設計に織り込むための活動が重要になります。設計レビューに積極的に参加し、製造現場の知見をフィードバックすることで、後工程で発生しうる問題を未然に防ぐのです。これは、問題が発生してから対処する「もぐら叩き」のような活動ではなく、より本質的な問題解決と言えるでしょう。
部門の壁を越えた連携をいかに実現するか
設計と製造の連携が重要であることは、多くの企業で認識されています。しかし、組織の壁や評価制度、あるいは物理的な距離が、円滑なコミュニケーションを阻害しているケースも少なくありません。「設計は設計、製造は製造」という縦割り意識が根強いと、有益な情報共有は進みません。
この課題を解決するためには、まず、設計者と製造技術者が同じ目標を共有する場を設けることが有効です。例えば、新製品開発のプロジェクトチームに、企画段階から製造技術者をアサインすることが考えられます。また、試作品の評価を共同で行い、その場で問題点を洗い出して対策を検討する仕組みも効果的です。こうした地道な活動を組織として奨励し、部門を横断した貢献を適切に評価する制度を整えることが、経営層や工場長には求められます。
日本の製造業への示唆
今回の考察から、日本の製造業が今後さらに競争力を高めていくための要点を以下に整理します。
1. 製造技術者の役割の再定義:
現場の生産性改善やカイゼン活動はもちろん重要ですが、それに加え、設計段階から関与し、製造の観点から品質と生産性を設計に織り込む「フロントローディング」を主導する役割が求められます。これは、技術者個人のスキルアップだけでなく、企業としての人材育成方針にも関わる重要なテーマです。
2. 設計起因の損失の可視化:
設計に起因する手戻り、不良、生産停止が、どれだけのコストと時間の損失を生んでいるかを定量的に把握することが重要です。この「見えざるコスト」を可視化することで、上流工程での対策の重要性について、経営層を含めた全社的な合意形成を図りやすくなります。
3. 協業を促す組織的な仕組み作り:
部門間の壁を越えるには、個人の努力だけに頼るのではなく、組織的な仕組みが不可欠です。デザインレビューへの製造部門の参加義務化や、開発プロジェクトにおける製造部門の役割と責任の明確化、さらには部門横断的な活動を評価する人事制度の導入などが具体的な施策として考えられます。
4. 技術者個人の意識改革:
製造技術者は、自らの専門領域に閉じこもるのではなく、設計者の意図を理解し、建設的な提案を行うコミュニケーション能力を磨く必要があります。逆に設計者も、製造現場の実情を理解しようと努める姿勢が、より良い製品開発に繋がることを忘れてはなりません。


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