サプライチェーンの強靭性を示す「レジリエンス」に加え、持続可能性を意味する「サステナビリティ」を統合した「サシリエンス(Susilience)」という新しい概念が注目を集めています。これは、短期的な混乱への対応と、長期的な事業環境の変化への適応を両立させる考え方であり、今後のものづくりの根幹をなす可能性があります。
背景:なぜ今、サプライチェーンのあり方が問われているのか
近年のパンデミックや頻発する自然災害、そして地政学的な緊張の高まりは、グローバルに広がるサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしました。特定地域からの部品供給が停止し、生産ラインが止まってしまう事態を経験した企業も少なくないでしょう。これまで多くの製造業が追求してきた、コスト効率を最優先する「リーン」なサプライチェーンは、こうした予期せぬ混乱に対しては必ずしも最適ではないことが明らかになりました。そこで、サプライチェーンが寸断されても迅速に復旧できる能力、すなわち「レジリエンス(強靭性)」の重要性が広く認識されるようになりました。
レジリエンスから「サシリエンス」へ
レジリエンスの強化は、在庫の適正化、生産拠点の分散、調達先の複数化といった具体的な対策として進められています。しかし、現代の企業経営にはもう一つ、避けては通れない大きな潮流があります。それが「サステナビリティ(持続可能性)」です。気候変動への対応(脱炭素)、人権への配慮、資源の循環といったESG(環境・社会・ガバナンス)への要請は、投資家や顧客からの評価はもちろん、事業継続そのものに直結する課題となっています。
この「レジリエンス」と「サステナビリティ」という、一見すると異なる二つの要請を統合した概念が「サシリエンス(Susilience)」です。これは、短期的な危機対応能力と、環境・社会といった長期的課題への適応能力を同時に高め、持続可能で強靭なサプライチェーンを構築しようとする考え方です。
「サシリエンス」が目指すもの
サシリエンスは、これまでトレードオフの関係にあると捉えられがちだった課題を、同時に解決する視点を提供します。例えば、次のような取り組みが考えられます。
調達先の多様化(レジリエンス向上)を図る際に、単に地理的に分散させるだけでなく、環境規制や人権デューデリジェンスの基準をクリアしたサプライヤーを新たに選定する。これは、サステナビリティの向上にも直接貢献します。
あるいは、工場のエネルギー源を再生可能エネルギーに切り替えることは、CO2排出量の削減(サステナビリティ向上)だけでなく、化石燃料の価格高騰や供給不安といったリスクからの回避(レジリエンス向上)にも繋がります。地域の資源を活用した地産地消型のエネルギー供給網は、災害時のレジリエンスを高める上でも有効でしょう。
このように、サシリエンスは「守り」のレジリエンスと、「未来への投資」であるサステナビリティを一体のものとして捉え、サプライチェーン全体をより強固で、社会的に価値のあるものへと進化させることを目指しています。
日本の製造業への示唆
この「サシリエンス」という考え方は、日本の製造業にとって多くの示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. サプライチェーン戦略の再定義
従来のQCD(品質・コスト・納期) 중심の管理指標に、R(レジリエンス)とS(サステナビリティ)を加えた「QCDRS」の視点でサプライチェーン戦略を再構築することが求められます。これらはコストではなく、未来の事業継続性を確保するための投資と捉えるべきでしょう。
2. サプライヤーとの関係深化
長年にわたる取引を通じて築き上げてきた国内サプライヤーとの強固な信頼関係は、サシリエンスを構築する上で大きな資産となります。価格や納期だけでなく、環境負荷の低減や労働環境の改善といったテーマで協働し、サプライチェーン全体の価値を高めていくパートナーシップがこれまで以上に重要になります。
3. デジタル技術による「見える化」の徹底
サシリエンスの実現には、サプライチェーンの上流から下流までを正確に把握する「見える化」が不可欠です。IoTによる生産・物流データのリアルタイム収集や、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティの確保は、リスクの早期検知(レジリエンス)と、人権・環境デューデリジェンスへの対応(サステナビリティ)の両面で強力な武器となります。
4. 部門横断での取り組み
サプライチェーンの変革は、調達、生産技術、品質保証、物流、営業といった特定部門の努力だけでは成し遂げられません。経営層が明確な方針を示し、全社横断的なプロジェクトとして推進していく体制づくりが成功の鍵を握ります。サシリエンスは、単なる現場の改善活動ではなく、経営そのものの課題として捉える必要があります。


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