英国の航空宇宙大手GKNエアロスペース社が、米国空軍研究所などと連携し、大型チタン構造部品のアディティブ・マニュファクチャリング(AM)技術の実用化を目指す大規模なプログラムを開始しました。本件は、航空宇宙分野における製造プロセスの変革を加速させる動きとして、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
国家レベルで推進される大型チタン部品のAM実用化
英国の航空宇宙部品メーカーであるGKNエアロスペース社は、米国空軍研究所(AFRL)やオークリッジ国立研究所(ORNL)などと協力し、「TITAN-AM」と名付けられた技術開発プログラムを立ち上げました。このプログラムの目的は、航空機の大型構造部品に用いられるチタン合金のニアネットシェイプ(最終形状に近い形状)AM技術を確立し、工業化することです。国家的な研究機関が参画していることからも、この技術への期待の高さがうかがえます。
航空宇宙分野では、軽量かつ高強度なチタン合金が多用されますが、従来の製造方法である鍛造や大型インゴットからの削り出しでは、材料の大部分が無駄になる「Buy-to-Fly比率」の高さが課題でした。AM技術、いわゆる3Dプリンティングは、この課題を根本的に解決し、コスト削減とリードタイム短縮を実現する切り札として注目されています。
ワイヤーDED方式による大型部品製造への挑戦
「TITAN-AM」プログラムで中核となる技術は、「レーザーメタルデポジション・ワイヤー(LMD-w)」方式です。これは、レーザーで溶融した金属ワイヤーを積層していくもので、指向性エネルギー堆積(DED: Directed Energy Deposition)法の一種に分類されます。粉末を材料とするパウダーベッド方式(PBF)に比べ、造形速度が速く、大型部品の製造に適しているのが特徴です。
本プログラムでは、このLMD-w技術を用いて、最大で直径1mに達する大型のチタン製航空機部品の製造実証を目指しています。これは、従来のAM技術が比較的小さな部品の製造や補修に用いられることが多かったのに対し、主翼や胴体を構成するような一次構造部材への適用を本格的に視野に入れた動きと言えるでしょう。日本の製造業においても、金型の肉盛補修や重工業分野の部品製造でDED技術の応用が進んでいますが、航空宇宙分野での大型重要部品への挑戦は、技術の信頼性向上を大きく後押しするものと考えられます。
品質保証とサプライチェーンまで見据えた包括的アプローチ
このプログラムの特筆すべき点は、単に造形技術の開発に留まらないことです。実用化に向けて不可欠な、材料特性の評価、プロセスの安定化、非破壊検査(NDI)技術の開発、残留応力の除去・緩和策、そして後工程となる機械加工戦略まで、製造プロセス全体を包括的に扱っています。
特に、金属AMで製造された部品の品質をいかに保証するかは、最も重要な課題の一つです。内部欠陥を確実に検出するための非破壊検査技術や、造形時に発生する大きな熱ひずみ(残留応力)のコントロールは、製品の信頼性を左右します。このような製造プロセス全体での課題解決に取り組む姿勢は、AM技術を自社に導入しようとする日本の製造現場にとっても、大いに参考になるはずです。
さらに、プログラムではチタンワイヤーといった材料のサプライチェーン安定化も視野に入れています。材料の安定供給は量産における大前提であり、技術開発と並行してサプライチェーンの課題に取り組む点に、本プロジェクトの本気度が表れています。
日本の製造業への示唆
今回のGKNエアロスペース社の取り組みは、日本の製造業関係者にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. AM技術は「実用化・量産化」のフェーズへ:
航空宇宙という最も要求品質の厳しい分野で、大型・重要構造部品へのAM適用が国家レベルで推進されています。これは、AMが単なる試作技術ではなく、本格的な量産技術としての地位を確立しつつあることを示しています。自社の製品や製造プロセスにおいて、AM技術をどのように活用できるか、より具体的な検討が求められる段階に来ています。
2. プロセス全体を俯瞰した技術開発の重要性:
3Dプリンタという「点」の技術導入だけでは、量産は実現できません。材料の選定から、造形、熱処理、非破壊検査、後加工まで、一貫した「線」としての製造プロセスを構築する視点が不可欠です。特に品質保証体制の確立は、日本のものづくりが競争力を維持する上で極めて重要となります。
3. サプライチェーン変革への備え:
AMによるニアネットシェイプ製造は、材料歩留まりを劇的に改善し、従来の鍛造品や削り出し部品に依存したサプライチェーンを大きく変える可能性があります。これは、リードタイムの短縮や在庫削減だけでなく、オンデマンドでの補修部品供給など、新たな事業機会の創出にも繋がります。
4. ワイヤーDED方式の可能性に注目:
大型部品や既存部品への肉盛・補修においては、ワイヤーを材料とするDED方式が有効な選択肢となります。日本の重工業、エネルギー産業、金型産業など、大型金属部品を扱う分野での応用可能性は非常に高いと考えられます。今後の技術動向を注視していく必要があるでしょう。


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