カナダのトロント市が、新たな製造業支援プログラム「EDGE」の開始を発表しました。この動きは、都市経済の成長における製造業の重要性を再認識し、行政が積極的にその振興に関与する姿勢を示すものであり、日本の製造業関係者にとっても示唆に富む事例と言えるでしょう。
トロント市が主導する製造業支援
先日、カナダ・トロント市のオリビア・チャウ市長は、市内の製造業を対象とした新たなインセンティブ・プログラム「EDGE(Economic Development and Growth in Equity)」の開始を発表しました。このプログラムは、トロント市内における製造業の経済発展と成長を促進することを目的としています。報道によれば、すでにノースヨーク地区にある製造施設が、このプログラムの最初の適用事例の一つとなっている模様です。
具体的なプログラムの詳細はまだ多く報じられていませんが、市政府が主導して特定の産業、特に製造業を名指しで支援するプログラムを立ち上げたという事実は注目に値します。グローバルなサプライチェーンの脆弱性が露呈し、経済安全保障の観点から国内生産への回帰(リショアリング)が重視される昨今の潮流の中で、都市がその受け皿として、また成長のエンジンとして製造業の価値を再評価していることの表れと考えられます。
「都市型製造業」の価値と自治体の役割
製造業というと、かつては広い土地を必要とするため郊外に大規模な工場を構えるのが一般的でした。しかし近年、その在り方は多様化しています。特に、研究開発(R&D)拠点、マザー工場、多品種少量生産を担う高付加価値な工場、あるいは顧客との共創スペースを併設したショールーム工場など、「都市型製造業」の重要性が増しています。
都市部に拠点を置くことには、優秀な人材へのアクセス、大学や研究機関との連携のしやすさ、関連サービス産業との近接性といった多くの利点があります。トロント市のような大都市が製造業を支援するのは、こうした都市ならではの強みを活かし、高付加価値な産業を誘致・育成することで、新たな雇用を創出し、都市全体の競争力を高める狙いがあるものと推察されます。
これは日本においても他人事ではありません。例えば、東京都大田区のように、高度な技術を持つ町工場が集積し、独自のネットワークを形成している地域は数多く存在します。今回のトロント市の事例は、こうした地域が持つポテンシャルを、自治体がどのように引き出し、支援していくべきかを考える上で、一つの参考になるでしょう。単なる補助金や税制優遇だけでなく、規制緩和、インフラ整備、人材育成支援など、行政が果たせる役割は多岐にわたります。
日本の製造業への示唆
今回のトロント市の取り組みから、日本の製造業関係者が得るべき示唆を以下に整理します。
1. 自治体との連携強化の可能性:
企業の自助努力だけでなく、事業所が立地する自治体との連携を深める視点が重要です。地域経済の活性化や雇用創出という共通の目標を掲げ、行政に対して積極的に課題を共有し、支援を働きかけることで、新たな事業機会が生まれる可能性があります。自社の事業が地域にどのような貢献をもたらすかを明確に示し、協力関係を築くことが求められます。
2. 立地戦略の再評価:
自社の工場や事業所の「立地」が持つ戦略的な意味を、改めて見直す良い機会かもしれません。コスト効率だけでなく、人材確保、技術連携、サプライヤーとの近接性、市場へのアクセスといった多角的な視点から、現在の立地が最適であるか、あるいは都市部に新たな機能を持つ拠点を設けるべきかを検討する価値はあるでしょう。
3. 地域内サプライチェーンの価値向上:
グローバルな供給網のリスクに対応するため、国内、特に自社が拠点を置く地域内でのサプライチェーンを強化する動きは加速しています。自治体が主導する産業振興策は、こうした地域内の企業間連携を後押しする絶好の機会となり得ます。地域の商工会議所や業界団体などを通じて、自治体の施策に関する情報を収集し、積極的に活用していく姿勢が重要です。


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