一見、製造業とは無関係に思える演劇業界の求人情報。しかしその職務内容には、日本の製造現場が改めて見直すべき、部門間連携と情報伝達の重要なヒントが隠されています。本稿では、異業種の事例から、品質と生産性を高めるための組織的な仕組みについて考察します。
異業種に見る「情報ハブ」としての現場担当者
先日、海外の演劇情報サイトに掲載された「衣装係(Wardrobe Dayworker)」の求人情報が、我々製造業に携わる者にとって興味深い示唆を与えてくれます。その職務内容には、「衣装に関するすべての問題や懸念を、デザイナー、ディレクター、プロダクションマネジメントに報告すること」という一文がありました。これは単なる作業指示ではなく、ひとつの重要な役割定義です。
これを製造業の現場に置き換えてみましょう。衣装は「製品」、衣装係は「現場の組立担当者や品質検査員」、デザイナーは「設計部門」、ディレクターは「生産技術や工程設計の責任者」、そしてプロダクションマネジメントは「生産管理部門」に相当すると考えられます。つまり、製品に最も近い場所で働く担当者が、設計・工程・生産管理という異なる機能を持つ複数の関係部署に対して、問題点を直接的かつ網羅的に報告する役割を担っているのです。これは、製造現場における理想的な情報連携の姿と言えるでしょう。
分断されがちな製造現場の情報伝達
日本の製造現場では、QCサークル活動などを通じて現場からの改善提案が活発に行われてきました。しかし、組織が大きくなるにつれ、情報の流れが滞りがちになることも少なくありません。例えば、現場の作業員が発見した組立上の些細な問題が、自身の所属する製造課の中だけで処理され、根本原因である設計部門や、影響が及ぶ可能性のある他の工程の担当部署にまで届かない、といったケースです。
あるいは、品質保証部門が検出した不具合情報が、統計データとしてまとめられはするものの、その背景にある「作業しにくい」「治具が合わない」といった定性的な情報が設計・生技部門に十分に伝わらないこともあります。演劇の衣装係が、デザイナー(設計者)とディレクター(演出家=工程責任者)の両方に直接報告するように、我々の現場でも、問題の性質に応じて、複数の関連部署へ同時に情報を伝達する仕組みが求められます。
「報告」を仕組み化し、文化として根付かせる
この演劇の求人情報は、問題報告が個人の意識の高さに依存するものではなく、明確な「職務」として定義されている点に注目すべきです。製造現場においても、「何か問題があれば、しかるべき部署に報告する」という曖昧な指示ではなく、どのような事象を、誰と誰に、どのような方法で報告するのかを具体的に定め、業務プロセスに組み込むことが重要です。これは、いわば「問題の見える化」と「情報伝達ルートの標準化」です。
また、報告が迅速かつ正確に行われるためには、心理的安全性も欠かせません。問題を報告したことで叱責されたり、業務が増えることを疎まれたりするような雰囲気があれば、現場は問題を隠すようになります。問題を早期に発見し、関係部署に共有することは、手戻りを防ぎ、品質を安定させ、最終的には全体の生産性を向上させる価値ある行為です。そうした報告を奨励し、評価する文化を醸成することが、経営層や工場長に求められる重要な役割となります。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、我々日本の製造業は以下の点を再確認することができます。
1. 現場担当者は「最初のセンサー」であることの再認識
製品に日々触れている現場の作業員や検査員は、図面や仕様書だけでは見えない問題点を発見できる最も重要な「センサー」です。彼らが感じた違和感や懸念は、将来の大きな品質問題を防ぐための貴重な情報源となります。
2. 情報伝達ルートの複線化と標準化
問題が発生した際、その情報を単一の部署(例えば直属の上長や製造課内)に留めるのではなく、設計、生産技術、品質保証といった関連部署へ横断的に共有する仕組みを構築することが肝要です。報告フォーマットや会議体を整備し、誰でも円滑に情報共有できる環境を整えるべきでしょう。
3. 報告を奨励する組織文化の醸成
問題を隠さず、積極的に報告することが、組織全体の利益に繋がるという共通認識を育む必要があります。経営層や管理者は、問題の報告を歓迎する姿勢を明確に示し、報告者への正当な評価を行うことで、現場からの自発的な情報共有を促進することができます。


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