ADMとバイエル、インドで持続可能な大豆調達を拡大 – 欧州の環境規制がサプライチェーン上流に与える影響

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米穀物大手のADMと独化学大手のバイエルが、インドにおける持続可能な大豆生産プログラムを延長・拡大しました。この動きは、欧州の新たな環境規制が、遠く離れたアジアの農産物サプライチェーンのあり方にまで直接的な影響を及ぼし始めていることを示す象徴的な事例と言えるでしょう。

グローバル企業によるサプライチェーン上流への関与

米国の穀物メジャーであるADM(Archer-Daniels-Midland)と、ドイツの農業化学大手バイエルは、インドで共同展開している持続可能な大豆生産プログラムを延長し、対象農家を拡大することを発表しました。このプログラムは、ProTerra財団という第三者認証機関を通じて運営されており、欧州市場向けに「森林破壊のない(deforestation-free)」大豆を供給することを主な目的としています。

日本の製造業においても、原料調達は事業の根幹をなしますが、その調達先、特にTier2、Tier3といった上流の生産現場の実態までを把握することは容易ではありません。今回の事例は、最終製品の市場要求を満たすために、グローバル企業が原材料の生産段階まで深く関与し、サプライヤーである小規模農家への直接的な支援に乗り出している点に大きな特徴があります。

プログラムの具体的な取り組み

この協業プログラムは、単に基準を満たした大豆を買い付けるだけではありません。バイエルが持つ農業分野の専門知識や「Better Life Farming」というプラットフォームを活用し、インドの小規模農家に対して、持続可能な農法に関するトレーニング、高品質な種子や作物保護製品といった生産資材、そして最新技術へのアクセスを提供しています。一方、ADMは生産された大豆の市場アクセスを保証し、認証を取得した農家に対してはプレミアム(奨励金)を支払うことで、取り組みへのインセンティブを与えています。

プログラムが重視する項目は以下の5つであり、これらは現代のESG経営における重要な要素と重なります。

  • 個々の農家に合わせた生産管理
  • 森林破壊の防止と生物多様性の保全
  • 人権の尊重
  • 温室効果ガス(GHG)排出量の削減
  • トレーサビリティの確保

2023年には対象地域を65,000エーカー、農家30,000人にまで拡大し、将来的には10万人の農家を巻き込む計画です。これは、サプライヤーの能力を向上させながら、自社のサプライチェーン全体の競争力と持続可能性を高めていく「サプライヤー開発」のアプローチであり、日本の製造業における協力会社との関係構築にも通じるものがあります。

背景にある欧州の森林破壊防止規則(EUDR)

この取り組みの強力な推進力となっているのが、欧州連合(EU)が導入を進める「森林破壊防止規則(EUDR: EU Deforestation-Free Regulation)」です。この規則は、大豆、パーム油、牛肉、木材、カカオ、コーヒー、ゴムといった特定の産品およびその派生製品をEU市場で販売・輸出する企業に対し、その製品が2020年12月31日以降に発生した森林破壊に由来していないことを証明するデューデリジェンス(適正評価手続き)を義務付けるものです。

違反した場合には多額の罰金が科される可能性もあり、企業にとっては事業継続に関わる重要な規制対応となります。ADMとバイエルの動きは、こうした規制に先んじて、サプライチェーンの透明性を確保し、コンプライアンス体制を構築するための具体的な打ち手と捉えることができます。規制が、遠く離れた国の生産現場のやり方を変え、企業の調達戦略そのものを根底から見直させているのです。

日本の製造業への示唆

今回の事例は、日本の製造業、特にグローバルに事業を展開する企業にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

1. サプライチェーンの完全な可視化とトレーサビリティの必要性
EUDRのような規制は、もはや完成品メーカーだけの問題ではありません。自社製品に使用される部品や原材料が、どのような環境・社会条件下で生産されたものなのか、その起源まで遡って把握し、証明する能力が不可欠となります。自社のサプライチェーンがどこまで見えているか、今一度点検する必要があるでしょう。

2. 規制を起点としたサプライチェーンの再構築
環境や人権に関する規制は、今後ますます世界の貿易における「非関税障壁」として機能していきます。規制に対応できないサプライヤーは、グローバルな調達網から弾き出されるリスクに直面します。コストや品質、納期(QCD)だけでなく、「サステナビリティ」や「コンプライアンス」を軸としたサプライヤー選定や、サプライチェーン全体の再設計が求められます。

3. サプライヤーとの協業による価値共創
規制対応を単なるコストとして捉えるのではなく、サプライヤーを支援・育成し、サプライチェーン全体のレジリエンス(強靭性)と付加価値を高める機会と見なす視点が重要です。技術支援やインセンティブの提供を通じて、サプライヤーとの強固なパートナーシップを築くことは、結果として安定的で持続可能な調達につながります。

4. 異業種連携と外部専門機関の活用
今回の事例のように、自社だけでは解決が困難な課題に対して、専門性を持つ他社や第三者機関と連携することは極めて有効な手段です。サプライチェーンの課題が複雑化する中で、閉鎖的な自前主義に固執するのではなく、オープンな協業体制を構築する柔軟性が今後の競争力を左右すると言えるでしょう。

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