「空飛ぶクルマ」として知られるeVTOL(電動垂直離着陸機)の開発をリードする米Joby Aviation社が、オハイオ州デイトンに大規模な生産拠点を確保したことが明らかになりました。これは、次世代モビリティの量産化に向けた動きが本格化していることを示す重要な事例と言えます。
eVTOL量産化に向けた具体的な一歩
カリフォルニア州に本拠を置くJoby Aviation社は、オハイオ州デイトン国際空港に隣接する約5万4,000平方メートル(約58万平方フィート)の広大な製造施設を取得しました。この施設は、同社にとって初の大規模量産工場となり、年間最大500機のeVTOLを生産する能力を持つ拠点へと拡張される計画です。2025年からの操業開始を目指しており、いよいよ試作・開発フェーズから量産フェーズへの移行が現実味を帯びてきました。
生産拠点としてのオハイオ州デイトンの地理的優位性
同社が生産拠点としてデイトンを選んだ背景には、明確な戦略が見て取れます。デイトンはライト兄弟が飛行機を開発した「航空発祥の地」として知られ、現在も米空軍の研究開発拠点などが存在する航空宇宙産業の集積地です。この地には、航空機の製造に関する深い知見を持つサプライヤーや、熟練した技術者・労働者が豊富に存在します。
今回取得した施設も、もともとは航空機用プロペラブレードを製造していた工場であり、航空機生産に適したインフラが整っていると考えられます。ゼロから工場を建設するのではなく、既存のインフラを有効活用することで、量産立ち上げまでの期間を短縮し、投資を効率化する狙いがあるものと推察されます。これは、日本の製造業においても、新規事業の拠点選定における重要な視点と言えるでしょう。
量産体制の構築とサプライチェーンへの影響
Joby Aviationは、この新工場を機体の製造・組立だけでなく、部品の内製化も進める垂直統合型の拠点として活用していく可能性があります。一方で、モーター、バッテリー、アビオニクス(航空電子機器)、複合材といった重要部品については、外部の専門サプライヤーとの連携が不可欠です。eVTOLの量産が本格化すれば、これまでにない新しい航空機サプライチェーンが形成されることになります。
従来の航空機産業とは異なる、電動化や自律化を支える技術を持つ企業にとっては、新たな市場参入の機会が生まれることを意味します。特に、高品質なモーターやバッテリー、軽量・高剛性な素材、精密な制御システムなどを得意とする日本の部品・素材メーカーにとって、この動向は決して無視できないものとなるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のJoby Aviation社の動きは、日本の製造業にいくつかの重要な示唆を与えてくれます。
第一に、新興産業における「量産化のスピード」の重要性です。eVTOLのような新しい市場では、技術開発と並行して、いかに迅速に安定した品質の製品を市場に供給できるかが勝敗を分けます。コンセプトや試作機だけでなく、量産体制の構築を早期に進めることの重要性を示しています。
第二に、「既存資産の活用と戦略的な立地選定」です。産業集積地に拠点を構え、既存の工場インフラを活用することで、人材確保、サプライチェーン構築、立ち上げ期間短縮といった複数の課題を同時に解決しようとするアプローチは、非常に合理的です。国内での拠点再編や海外進出を検討する際に、大いに参考になる考え方です。
最後に、「新たなサプライチェーンへの参入機会」です。eVTOL市場の立ち上がりは、自動車や航空宇宙といった既存のサプライチェーン構造に変化をもたらす可能性があります。自社の持つ技術や製品が、この新しいモビリティ産業においてどのような価値を提供できるのか。今から具体的な検討を始め、来るべき量産化の波に備えておくことが肝要です。


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