次世代半導体製造の鍵を握る成膜技術:韓国Viatron社が挑む3D DRAMとGAAの課題

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半導体の微細化が物理的限界に近づく中、その構造は3次元へと進化しています。この変化は、製造工程における成膜技術に新たな課題を突きつけており、韓国の装置メーカーViatron社は独自の技術でこの難題に挑んでいます。

半導体構造の3次元化がもたらす新たな成膜の課題

長年、半導体の性能向上を支えてきた「ムーアの法則」ですが、回路線幅の微細化は物理的な限界に直面しつつあります。この壁を乗り越えるため、半導体業界では素子の構造を平面(2D)から立体(3D)へと移行させる動きが加速しています。NAND型フラッシュメモリで先行したこの流れは、現在、DRAMやロジック半導体(トランジスタ)にも及んでいます。

具体的には、DRAMでは円筒状のキャパシタをより高く積層する「3D DRAM」が、ロジック半導体では従来のFinFET構造から、電流の通り道であるチャネルの四方をゲートで囲む「GAA(Gate-All-Around)」構造への移行が進んでいます。これらの3次元構造に共通する製造上の課題は、アスペクト比(深さと幅の比率)が非常に高い穴の側壁や、複雑なナノシート構造の表面に、極めて均一で高品質な薄膜を形成することです。従来の成膜技術では、こうした要求を満たすことが困難になってきており、生産技術における新たなブレークスルーが求められています。

ALDの精度とCVDの速度を両立する「準ALD」技術

この課題に対し、韓国のViatron Technologies社は、独自の「エピタキシャルCVD装置」で解決策を提示しています。同社の技術の核心は、「Quasi-ALD(準ALD)」と呼ばれるアプローチにあります。従来の成膜技術を比較すると、ALD(原子層堆積法)は原子レベルで膜厚を精密に制御できる反面、成膜速度が非常に遅く、生産性に課題がありました。一方、CVD(化学気相成長法)は高速ですが、複雑な形状の表面を均一に覆う「ステップカバレッジ」性能に限界がありました。

Viatron社の「準ALD」は、この二つの技術の長所を組み合わせることを目指したものです。ALDのような精密な表面反応の制御と、CVDのような連続的なプロセスを融合させることで、高品質なエピタキシャル膜(下地の結晶構造を引き継いで成長する膜)を、従来よりも高速に形成することを可能にしました。生産現場では常に品質とスループット(生産性)の両立が求められますが、この技術は、そのトレードオフを克服しようとする興味深いアプローチと言えます。

低温プロセスが実現する次世代デバイス製造

同社のもう一つの重要な技術的特徴は、600℃以下という比較的低温でのプロセスを実現した点です。半導体の製造工程では、ウェハ上に何層にもわたって素子が作り込まれていきます。後工程での熱処理温度が高いと、先に形成した素子の特性(例えば、不純物の拡散状態など)に影響を与え、デバイス全体の性能を損なう恐れがあります。この「サーマルバジェット(熱履歴)」の制約は、構造が複雑化するほど厳しくなります。

Viatron社の低温エピタキシャル成長技術は、この熱によるダメージを最小限に抑えながら、高品質なSi(シリコン)やSiGe(シリコンゲルマニウム)膜の形成を可能にします。これは、3D DRAMやGAAといった最先端デバイスの製造において、設計通りの性能を引き出すために不可欠な要素となります。既存の製造ラインへの影響を抑えながら新技術を導入できる可能性を持つ点も、実務的な観点から注目されます。

有機EL分野で培った知見を半導体へ

興味深いことに、Viatron社は元々、有機EL(OLED)ディスプレイの製造装置を手掛けてきた企業です。一見、分野が異なるように思えますが、有機EL製造で要求される大面積基板への均一な熱処理技術や、厳密なパーティクル管理、高真空技術といったノウハウが、今回の半導体製造装置開発における強力な基盤となっています。

これは、自社が持つコア技術を、市場が大きく成長している別の分野へと応用展開した好例と言えるでしょう。日本の製造業においても、自社が長年培ってきた固有の技術を棚卸しし、新たな市場ニーズと結びつけることで、新しい事業の柱を構築できる可能性を示唆しています。

日本の製造業への示唆

今回のViatron社の取り組みは、日本の製造業に携わる我々にいくつかの重要な示唆を与えてくれます。

技術の進化は新たな製造課題を生む: 半導体の3次元化のように、製品構造が高度化・複雑化する局面では、必ず新たな生産技術上の課題が生まれます。これは、その課題を解決できる装置メーカーや材料メーカーにとって、大きな事業機会となり得ます。

既存技術の組み合わせによるブレークスルー: 全く新しい技術開発だけでなく、「準ALD」のように、既存の技術(ALDとCVD)の長所を組み合わせ、欠点を補い合うという発想が、現実的な解決策を生み出すことがあります。これは、現場レベルの改善活動にも通じる考え方です。

異分野技術の応用展開: 有機ELディスプレイで培った技術を半導体装置に応用したように、自社のコアコンピタンスを異なる市場や製品に展開する視点は、企業の持続的成長に不可欠です。固定観念にとらわれず、自社技術の価値を再評価することが求められます。

サプライチェーンにおける新たな役割: 次世代半導体の製造は、より高度で専門的な技術を持つサプライヤーとの緊密な連携が鍵となります。日本の製造業は、この複雑化するサプライチェーンの中で、自社の強みを活かし、どのような価値を提供できるかを改めて戦略的に考える必要があります。

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