調達・購買の即戦力を採るうえで最も差が出るのが、サプライヤ評価(ベンダー評価・仕入先評価)の経験値です。価格交渉だけでなく、リードタイム、品質、供給安定性、ESG・コンプライアンスまでを含む全体最適の評価設計と運用ができるかどうかが、事業の粗利と事業継続性を左右します。本記事は、採用面接と選考設計でサプライヤ評価経験の深さを確実に見抜くための実践テンプレートです。
サプライヤ評価を採用で重視すべき理由
調達コストは売上原価の大部分を占め、欠品・品質不良はそのまま機会損失やブランド毀損につながります。評価経験が豊富な人材は、単発のコストダウンではなく、評価指標→選定→契約→モニタリング→是正・開発→退出までのライフサイクルを設計・運用し、継続的にKPIを改善します。
キーワードの同義語として、ベンダー評価・仕入先評価・取引先評価・サプライヤ監査も対象に含めて見極めるのがポイントです。
即戦力の定義(直接材/間接材・国内/海外・量産/プロジェクト)
業種・材カテゴリにより評価観点は変わります。候補者が扱ってきた領域を最初に特定すると、面接の深掘りがぶれません。
- 直接材か間接材か(製品品質・供給影響の重みが異なる)
- 国内調達か海外調達か(為替・貿易実務・地政学リスク)
- 量産かプロジェクト型か(PPAP/IATFなどの規格、開発部門連携)
- 標準品か図面品か(VAVE・サプライヤ開発の関与度)
経験の深さを測る成熟度フレーム
レベルA(入門):価格・納期・品質の事後評価を担当。Excelでの集計中心。
レベルB(実務):QCD+リスク・ESGを加えたスコアカードを運用。月次レビューと是正要求ができる。
レベルC(上級):RFI/RFQ〜契約〜QBRまでの仕組み化、部門横断のKPI連動、代替ソーシング計画を保有。
レベルD(設計・変革):評価体系の再設計、カテゴリ戦略・SRM/ESG統合、サプライヤ開発プログラム立ち上げ。
採用ターゲットがどのレベルかを先に定義し、質問・課題・評価配点を合わせます。
見極めの物差し(スキルマトリクス)
- 戦略:カテゴリ戦略、単一依存リスク低減、マルチソース設計
- 指標:OTD(納期遵守率)、PPM/不良率、リードタイム、在庫回転、コスト削減率、CO₂/ESG指標
- 仕組み:評価指標設計、重み付け、スコアリング、QBR(四半期レビュー)
- データ:ERP/SRM/BIの活用、データ整備、可視化、異常検知
- 品質・監査:8D/是正措置、監査計画、監査所見のクローズ、PPAP・ISO/IATF知見
- 契約・法務:SLA/ペナルティ、価格調整条項、知財・守秘、コンプラ
- リスク・BCP:代替品・代替供給、地政・災害・法規制、輸送/為替
- ESG:人権・環境・サプライチェーンデューディリジェンス、サステナ方針との整合
面接質問集(深掘りプローブ付き)
評価設計の経験
例:「評価指標の設計・改定を行ったことはありますか。重み付けと指標の根拠を教えてください。」
深掘り:「品質とコストのトレードオフはどう扱いましたか」「ESGやリスク指標は何を入れたか」
選定プロセスの再現性
例:「RFI→RFP→RFQの流れで、最終選定に使ったスコアカードと閾値を示してください。」
深掘り:「価格以外で逆転した事例」「関係部署の反対をどう解消したか」
運用と是正
例:「OTDが目標未達のサプライヤに対し、どんな是正計画を引き出し、何週で改善させましたか。」
深掘り:「8Dの各段階で自分がやったこと」「ベンダー退出の判断基準」
成果の定量化
例:「前年対比のコスト削減率と、コスト回避の算定式を教えてください。」
深掘り:「価格以外の価値(LT短縮・品質改善・在庫圧縮)の金額換算方法」
ESG・コンプラ
例:「ESG項目を評価に組み込みましたか。監査での是正とフォローをどう運用しましたか。」
深掘り:「人権・環境リスクの事例」「高リスク国への対応方針」
システム活用
例:「ERP/SRM/BIで、どのデータを、どの頻度で、どうクレンジングして使いましたか。」
深掘り:「ダミー・重複ベンダーの統合作業」「異常検知の閾値設定」
交渉の倫理と関係性
例:「短期の値下げと中長期の協働開発、どう両立させましたか。」
深掘り:「QBRのAgendaと合意事項の記録・追跡方法」
その場で判定できる演習課題(30分)
お題
あるカテゴリの候補サプライヤ3社の比較資料と、過去12か月の実績データ(価格・OTD・PPM・LT・ESG点)を渡します。
依頼
重み付けを自ら定義し、スコアカードで評価→採用/条件交渉/開発/保留のポートフォリオを提案。
評価ポイント
重み付けの妥当性、データ整備の正確さ、KPIの紐づけ、リスクとBCP、短期・中長期施策の両立、提案のロジック一貫性。
成果を数値で「言わせる」チェックリスト
- OTD(納期遵守率):改善幅、母数、期間
- PPMまたは不良率:是正措置と再発防止の実効性
- リードタイム短縮:工程・輸送・通関の何を短縮したか
- 在庫回転/キャッシュの改善額:安全在庫とサービスレベルの両立
- 年間コスト削減率:価格低減とコスト回避の区別と算定式
- 代替ソーシング率:単一依存からの脱却、移管リードタイム
- ESG・監査:所見件数、是正完了率、再発率
※ベンチマークの数字より、算定根拠と再現方法を説明できるかを重視。
コピペで使える求人票テンプレ(成果ベース)
職種:調達・購買(サプライヤ評価/SRM 即戦力)
ミッション:12か月でOTD+3pt、PPM▲30%、在庫回転+0.5回、カテゴリコスト▲3%を達成。
仕事内容:評価指標設計と運用、RFI/RFP/RFQ、QBR、是正・開発、退出管理、データ可視化。
必須要件:評価スコアカードの設計または改定経験、月次モニタリングと是正の主担当経験、ERP/SRM/BIの実務活用。
歓迎要件:カテゴリ戦略策定、海外調達・為替実務、品質規格(ISO/IATF/PPAP)知見、ESG統合評価の実装。
KPI:OTD、PPM/不良率、LT、在庫回転、コスト削減・回避額、監査是正率、代替ソース比率。
年収レンジ:○○万〜○○万(成果・経験に応じ決定)
面接スコアカード(配点例)
評価軸 | 重要度 | 観点 |
---|---|---|
評価設計・重み付け | 高 | 指標選定の根拠、事業KPIとの連動、トレードオフの扱い |
運用・是正 | 高 | 異常検知→8D→再発防止までのハンドリング |
データ活用 | 中 | ERP/SRM/BI、データ整備、ダッシュボード設計 |
リスク・BCP | 中 | 単一依存解消、移管計画、在庫とサービスの最適化 |
ESG・コンプラ | 中 | 監査、是正、RFI段階でのデューデリ |
ステークホルダー調整 | 中 | 開発・製造・品質・法務との合意形成 |
実績の再現性 | 高 | Before/After、算定式、横展開の設計 |
採点はS/A/B/Cの4段階ではなく、根拠を必ずテキストで記録し、最終判断は複数面接官の合議で行います。
よくある見抜きの落とし穴
- 値下げ実績のみを強調し、品質・LT・在庫・BCPの定量効果が語れない
- エクセル集計に終始し、評価設計の改定や仕組み化の経験がない
- 国内専業で、海外・為替・貿易・地政の論点が弱い
- ESGをPR資料レベルでしか語れず、監査→是正→フォローの運用がない
- ベンダー退出の意思決定ができず、甘い関係性に陥っている
90日オンボーディング計画(採用後の早期見極め)
- 0〜30日:現行評価体系とデータ品質の診断、異常検知の閾値見直し提案
- 31〜60日:重点カテゴリのスコアカード改定、QBR再設計、是正テンプレ刷新
- 61〜90日:代替ソーシングのPoC着手、在庫回転・OTDの短期改善施策を実装
合格基準:KPIのミニ改善(例:重点SKUのOTD+1pt、PPM▲10%)と、評価改定案の合意形成。
候補者に事前提出を求めたいポートフォリオ
- 評価スコアカードと重み付け根拠
- RFI/RFP/RFQテンプレ(秘匿部分はマスクで可)
- 8Dまたは是正措置報告の実例
- QBR資料(アジェンダ・改善ロードマップ)
- ESG監査の所見サマリとフォロー計画
まとめ
サプライヤ評価経験の見極めは、設計の有無・運用の厳度・改善の再現性の三点セットで行います。数字の大きさよりも、算定式と横展開のロジックを語れるかどうか。面接質問・演習課題・スコアカード・オンボーディングをこの記事の型でそろえれば、価格交渉型の“見せかけの即戦力”を排し、事業KPIに効く人材を高精度に採用できます。
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