ゼネラルモーターズ(GM)の製造部門を率いる上級副社長は、かつて工場の見習い工でした。彼の40年以上にわたるキャリアと哲学は、変革期にある日本の製造業のリーダーシップと人材育成のあり方を考える上で、多くの示唆を与えてくれます。
見習い工から製造部門トップへ
ゼネラルモーターズ(GM)でグローバル製造部門のトップを務めるマイク・トレボロー上級副社長(SVP)の経歴は、多くの製造業関係者にとって示唆に富むものです。彼は1979年、18歳の時にカナダ・オンタリオ州のオシャワ組立工場で、工具・金型製作者の見習い工としてキャリアをスタートさせました。そこから40年以上の歳月を経て、GM全体の製造オペレーションを統括する立場にまで上り詰めました。そして現在、彼はキャリアの原点であるオシャワ工場で、新型EV「キャデラック エスカレードIQ」の生産立ち上げを指揮しています。
日本の製造業においても、かつては現場で技能を磨いた叩き上げの人材が工場長や役員へと昇進するキャリアパスは決して珍しくありませんでした。しかし近年、そうした事例は少なくなっているかもしれません。トレボロー氏のキャリアは、現場での経験がいかに企業のトップレベルの意思決定において価値を持つかを改めて示していると言えるでしょう。
リーダーシップは現場で発揮される
トレボロー氏のリーダーシップ哲学の根幹には、徹底した「現場主義」があります。SVPという要職に就いた今でも、彼はオフィスのデスクに座っているよりも、工場のフロアを歩き、従業員と直接対話することを好みます。彼は「リーダーシップは現場で発揮されるものだ(Leadership happens on the floor)」と語ります。これは、問題や課題、そして改善のヒントはすべて現場にあり、リーダーは自らの足で現場に赴き、五感で状況を把握し、従業員の声に耳を傾けるべきだという考えの表れです。
この姿勢は、私たち日本の製造業が大切にしてきた「三現主義(現場・現物・現実)」の精神と深く通じるものがあります。ともすれば管理職は、データや報告書といった二次情報に頼りがちになりますが、現場の空気感や従業員の表情、機械の微かな異音といった生の情報に触れることの重要性を、彼の行動は物語っています。現場との距離が、組織の競争力を左右する重要な要素となり得るのです。
変革期を乗り越えるための対話と尊重
自動車業界は現在、EV化という100年に一度の大変革の只中にあります。このような大きな変化は、現場の従業員に不安や戸惑いを生じさせることが少なくありません。トレボロー氏は、こうした変革を成功させる鍵もまた、現場の従業員にあると考えています。彼は、従業員一人ひとりがGMの成功に不可欠な存在であると心から信じ、彼らが最高の仕事ができる環境を整えることがリーダーの最も重要な責務だと述べています。
彼のリーダーシップは、安全を最優先し、品質を決しておろそかにしないという、製造業の基本に忠実です。その上で、従業員との対話を重ね、彼らの知見やアイデアを引き出し、変革への参画意識を高めようと努めています。技術的な革新だけでなく、それを支える「人」の心を動かし、組織全体で変化に適応していく。彼の姿勢は、変化の激しい時代におけるマネジメントのあり方を示唆しています。
日本の製造業への示唆
マイク・トレボロー氏のキャリアとリーダーシップは、日本の製造業が改めて見つめ直すべきいくつかの重要な点を示しています。
1. 現場起点のキャリアパスの再評価
現場での深い知見と経験を持つ人材が、経営の中枢で意思決定を行うことの価値は計り知れません。長期的な視点に立った人材育成計画の中で、現場からの叩き上げ人材を育成し、登用する仕組みを再構築することは、組織の地力を高める上で有効な手段となり得ます。
2. リーダーによる「現場回帰」の実践
役職が上がるほど、リーダーは意識的に現場に足を運ぶ必要があります。従業員との直接対話は、現場の実態を正確に把握するだけでなく、信頼関係を築き、組織の一体感を醸成します。これは、品質の維持向上や生産性の改善、そして新たな改善活動への意欲を引き出す上で不可欠です。
3. 変革期における人材マネジメント
DXやGX(グリーン・トランスフォーメーション)といった大きな変革を進める際には、トップダウンの指示だけでは不十分です。現場の従業員の不安に寄り添い、変革の目的やビジョンを丁寧に共有し、彼らの持つ知恵やスキルを最大限に活かす対話型のリーダーシップが、変化への抵抗を乗り越え、持続的な成長を実現する鍵となるでしょう。


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