英国の自動車メーカー、ジャガー・ランドローバー社と鉄鋼大手アルセロールミッタル社の協業は、製品開発のあり方に新たな示唆を与えています。本記事では、彼らがどのようにサプライヤーとの深い連携とデジタル技術を駆使し、製造性を考慮した設計(DFM)を高度化させたのかを解説します。
製品開発の初期段階における連携の重要性
自動車業界をはじめとする製造業では、開発期間の短縮とコスト競争力の強化が常に課題となっています。この課題解決の鍵となるのが、設計の初期段階で製造や組立のしやすさを織り込む「製造性を考慮した設計(Design for Manufacturing: DFM)」です。後工程での手戻りを防ぎ、開発プロセス全体を効率化するこの考え方は、日本の製造業においても長年重視されてきました。
JLRとアルセロールミッタルの協業事例
近年、英国のジャガー・ランドローバー(JLR)社と世界的な鉄鋼メーカーであるアルセロールミッタル社が、車体プラットフォームの開発において緊密な連携を行いました。この事例の特筆すべき点は、単なる素材供給者と利用者の関係を超え、開発のコンセプト段階から両社が一体となって共同エンジニアリングを進めたことにあります。素材の特性を最大限に引き出すための設計と、その設計思想を実現するための素材開発が、同時並行で進められたのです。
協業を支えた「システムレベルでの共創」と「デジタル技術」
この協業を成功に導いた要因は、主に二つ考えられます。一つは「システムレベルでの共同エンジニアリング」です。個々の部品設計に素材メーカーが意見を出すのではなく、車体プラットフォームというシステム全体を対象に、最適な構造や材料の組み合わせを両社で検討しました。これにより、部品単体では達成できない軽量化や剛性向上、コスト効率の改善が実現されたとみられます。これは、日本の製造業が得意としてきた「すり合わせ」の考え方を、企業間の壁を越えて、より大規模かつ初期段階から実践したものと言えるでしょう。
もう一つの要因は、「AIを活用したデジタルツール」の活用です。膨大な組み合わせの中から最適な設計案を導き出すため、両社はAI技術を搭載したシミュレーションツールを駆使しました。これにより、従来は熟練技術者の経験と勘に頼っていた部分をデータに基づいて定量的に評価し、開発サイクルを大幅に高速化することが可能になりました。これは、ベテランの知見をデジタル技術によって形式知化し、組織全体の設計能力を高める取り組みとして、非常に参考になります。
日本の製造業への示唆
このJLR社の事例は、日本の製造業にとっても多くの実務的な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
1. サプライヤーとの関係性の再定義: 従来の受発注関係から脱却し、製品開発の初期段階からサプライヤーを「共創パートナー」として巻き込むことの重要性が改めて示されました。特に、高機能素材やコア部品を扱うサプライヤーとは、より深いレベルでの技術連携が求められます。
2. フロントローディングの徹底と部門横断連携: DFMの考え方をさらに推し進め、設計、生産技術、購買、品質管理、そしてサプライヤーまで含めた関係者が、開発の超初期段階から情報を共有し、一体となって課題解決にあたる体制構築が不可欠です。
3. デジタルエンジニアリングの戦略的活用: AIやシミュレーションといったデジタルツールは、単なる効率化の道具ではありません。企業の垣根を越えたコラボレーションを促進し、これまで不可能だった複雑な最適化問題を解くための基盤技術となります。これらの技術をいかに自社の開発プロセスに組み込むかが、今後の競争力を左右するでしょう。
激しい環境変化に直面する中で、自社単独での開発には限界があります。外部の知見を積極的に取り入れ、プロセス全体を最適化していく視点が、これからのものづくりには一層重要になると考えられます。


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