米国バージニア州にて、ワイヤーアーク積層造形(WAAM)技術を手がけるスタートアップが大規模な設備投資を発表しました。この動きは、大型金属部品の製造における新たな選択肢として、WAAM技術への期待が高まっていることを示唆しています。
米スタートアップによる大型設備投資の発表
米国バージニア州のスパンバーガー知事は、ワイヤーアーク積層造形(Wire Arc Additive Manufacturing: WAAM)技術を専門とするスタートアップ企業「Radian Forge」社が、同州ポーツマス市に1050万ドル(約16億円)を投じて新たな製造拠点を設立する計画を発表しました。この投資は、防衛、航空宇宙、造船といった分野での需要増を背景に、大型金属部品の新たな製造手法としてWAAM技術が本格的な実用フェーズに入りつつあることを示す事例と言えるでしょう。
注目されるWAAM(ワイヤーアーク積層造形)技術とは
WAAMは、金属3Dプリンティングの一種であり、アーク溶接の技術を応用したものです。溶接ワイヤーを材料とし、アーク放電の熱で溶かしながらロボットアームなどで一層ずつ積み重ね、三次元の立体物を造形します。日本の製造現場でも広く使われている溶接技術がベースとなっているため、比較的イメージしやすい技術かもしれません。
この技術の最大の特長は、その高い造形速度と大型部品への対応力にあります。レーザー光で金属粉末を溶融・凝固させるパウダーベッド方式(PBF)などに比べ、単位時間あたりの材料供給量が多く、数メートル級の大型構造物の製造も視野に入ります。また、材料として一般的な溶接ワイヤーを使用できるため、専用の金属粉末よりもコストを抑えやすく、材料の選択肢が広い点も利点です。
一方で、課題も存在します。溶融池が大きいため、寸法精度や表面の滑らかさは他の方式に劣ります。そのため、造形したそのままの状態で最終製品とすることは難しく、多くの場合、切削加工などの後工程が必要となります。このことからWAAMは、最終形状に近い大まかな形(ニアネットシェイプ)を高速で造形し、後加工で仕上げるという「ハイブリッドな製造プロセス」の一部と捉えるのが実態に即しています。また、大きな入熱を伴うため、造形物の内部に発生する熱ひずみや残留応力の管理が、品質を確保する上で極めて重要な技術的課題となります。
なぜ今、WAAMへの投資が加速するのか
今回のRadian Forge社への投資は、単なる一企業の動向に留まりません。その背景には、製造業全体が直面する課題と、WAAM技術の特性が合致しているという側面があります。特に、航空宇宙や造船、エネルギー産業で求められる大型部品は、従来、鍛造や鋳造、あるいは巨大な金属ブロックからの削り出しで製造されてきました。これらの製法は、金型や木型の製作に多大な時間とコストを要し、リードタイムの長さが常に課題でした。
WAAMは、設計データから直接部品を製造できるため、こうしたリードタイムを劇的に短縮できる可能性があります。また、必要な時に必要な場所で部品を製造する「オンデマンド生産」を実現し、サプライチェーンの強靭化にも貢献します。今回の投資先であるポーツマス市が、米海軍の重要な造船拠点を擁する地域であることは、艦船の補修部品の迅速な供給といった、防衛分野での活用が強く意識されていることをうかがわせます。
日本の製造業への示唆
この米国の事例は、日本の製造業にとっても多くの示唆を含んでいます。
第一に、WAAMは大型部品の製造における新たな選択肢となり得ます。特に、開発試作品や一品モノの治具、あるいは生産中止となった設備の補修部品など、従来の製法ではコストや納期が見合わなかった領域で、新たな価値を生み出す可能性があります。鍛造や鋳造といった基幹産業を代替するものではなく、それらを補完し、製造の選択肢を広げる技術として捉えるべきでしょう。
第二に、WAAMは既存技術との融合が成功の鍵を握る分野であるという点です。この技術の真価は、日本の製造業が長年培ってきた溶接施工技術、材料冶金に関する知見、高精度な切削加工技術、そして非破壊検査をはじめとする品質管理技術と組み合わせることで初めて発揮されます。既存の強みを活かせる領域であり、異業種の技術連携が新たな競争力を生む可能性を秘めています。
最後に、これはサプライチェーン変革のきっかけとなる可能性も示唆しています。部品の地産地消や、デジタルデータに基づいた分散型生産といった、より柔軟で強靭な生産体制への移行を後押しする技術となり得ます。自社で扱う製品・部品の中で、リードタイムの長さやサプライチェーン上のリスクが課題となっているものはないか、WAAM技術を適用することで解決できないか、という視点で一度見直してみる価値はあるでしょう。まずは技術動向を注視し、小規模な実証実験から可能性を探ることが、将来に向けた重要な一手となるかもしれません。


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