一見、製造業とは無関係に思えるシミュレーションゲームの世界にも、工場運営に通じる普遍的な原則を見出すことができます。本稿では、あるゲームの資源管理システムを題材に、生産計画や人員配置といった、我々の業務の根幹にある考え方を改めて考察します。
ゲームにおける「生産上限」の設定
海外のゲーム情報サイトで紹介されている『Nested Lands』というシミュレーションゲームでは、村の管理画面から各資源の「生産上限」を設定できる機能があるようです。これは、プレイヤーが木材や石材、食料といった資源の備蓄量に上限を設け、それを超える生産を自動的に停止させる仕組みです。我々、製造業に携わる者にとって、この機能は工場の「生産計画」や「在庫管理」そのものであると言えるでしょう。
なぜ上限設定が必要なのでしょうか。それは、無計画な生産が「過剰在庫」を生み出すからです。過剰な在庫は、保管スペースを圧迫し、品質劣化のリスクを高め、何よりも貴重な資源(原材料、労働力、時間)を浪費します。必要なものを、必要な時に、必要なだけ作るという思想は、リーン生産方式の基本であり、このゲームのシステムは、その重要性を直感的に理解させてくれます。自社の工場においても、各製品の在庫基準や生産指示の仕組みが、市場の需要や後工程の能力と適切に連動しているか、改めて見直すきっかけになるかもしれません。
「村人」というリソースの最適配置
このゲームのガイドでは、「労働者」と「警備員」という役割についても言及されています。これは、限られた人的リソースである「村人」を、生産活動に直接従事させるか、あるいは村の安全維持といった間接的な業務に割り当てるか、という采配が求められることを示唆しています。これもまた、工場の「人員配置」や「工数管理」と全く同じ構造です。
生産量を増やせば、より多くの「労働者(直接人員)」が必要になります。しかし、生産が計画通りに進み、人員に余剰が生まれた場合、そのリソースをどう活用するかが問われます。遊ばせておくのではなく、設備のメンテナンスや5S活動、あるいは改善活動といった「警備(間接業務)」に振り向けることで、組織全体の生産性は向上します。熟練の現場リーダーが、日々の生産状況に応じて柔軟に人員を再配置する姿は、まさにこのゲームのプレイヤーが行う判断と重なります。多能工化を進め、状況に応じて誰もが様々な役割を担える体制を構築することの重要性が、ここからも見て取れます。
シミュレーションが示す全体最適の視点
ゲームという単純化された世界では、一つのパラメータ(例えば、生産上限の変更)が、システム全体(必要な労働者数、倉庫の空き容量、村の満足度など)にどのような影響を及ぼすかが、即座に可視化されます。ある資源の生産を優先すれば、別の資源の生産が滞るかもしれません。労働者を増やせば食料の消費が増える、といったトレードオフの関係も明確です。
これは、ともすれば部分最適に陥りがちな現実の工場運営において、「全体最適」の視点がいかに重要であるかを再認識させてくれます。生産部門が自身の効率のみを追求した結果、後工程や物流部門に過剰な負担を強いてしまう、といった事態は決して珍しくありません。自社のオペレーションを一つのシステムとして捉え、各部門の連携やリソース配分のバランスを常に意識することが、持続的な成長には不可欠です。
日本の製造業への示唆
今回のゲームの事例から、我々が日々の業務で実践している生産管理の原則を、改めて客観的に捉え直すことができます。以下に、実務への示唆を整理します。
1. 生産の「なぜ」を問い直す:
生産計画や在庫基準は、明確な目的意識をもって設定・運用されているでしょうか。「前年同様だから」という理由ではなく、需要予測やキャッシュフロー、リスク管理の観点から、その数字の妥当性を定期的に見直すことが肝要です。
2. 人員は最も重要な経営資源である:
生産量の変動に応じて、人員を柔軟に再配置できる体制が構築できているでしょうか。直接作業だけでなく、改善活動や人材育成といった間接業務に工数を戦略的に配分することが、現場力の向上につながります。多能工化の推進はその有効な手段の一つです。
3. システム思考の涵養:
自部門の決定が、サプライチェーン全体にどのような影響を及ぼすかを常に意識する文化を醸成することが重要です。ゲームのようなシミュレーションは、若手技術者や現場リーダーが、こうした全体最適の視点を直感的に学ぶための有効な教育ツールとなり得る可能性も秘めています。
4. デジタル化への布石:
ゲーム内で行われているリソースの可視化とシミュレーションは、現実世界における「デジタルツイン」のコンセプトに通じるものです。工場のあらゆる情報をデータ化し、仮想空間で生産計画のシミュレーションを行うことで、より精度の高い意思決定が可能になります。一見単純なゲームの仕組みも、製造業の未来を考える上でのヒントを与えてくれます。


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