異業種に学ぶ、生産管理者のキャリアパス — なぜ現場の経験が経営トップへの道を開くのか

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世界的な人気ゲームシリーズの責任者に、プロダクションマネージャー出身者が就任したというニュースが報じられました。一見、製造業とは無関係に思えるこの事例から、生産管理の経験が経営層へのキャリアパスとしていかに重要であるか、その本質を読み解きます。

異業種における「生産管理者」の抜擢

先日、世界的な人気を誇るゲームシリーズ「アサシンクリード」の新しいフランチャイズ責任者に、マーティン・シェリング氏が就任したことが報じられました。注目すべきは、同氏の経歴です。彼は、2003年からプロダクションマネージャー(Production Manager)としてキャリアをスタートさせ、徐々に指導的な立場へと昇進していきました。ゲーム開発におけるプロダクションマネージャーとは、プロジェクト全体の進捗、予算、リソース配分、品質を管理する役割を担います。これは、我々製造業における「生産管理部長」や「製造部長」の職務と極めて近いものと言えるでしょう。

この人事は、複雑なプロジェクトを完遂させる現場の管理能力が、事業全体の舵取りを行う経営能力に直結することを示唆しています。日本の製造業においても、現場からの叩き上げで工場長や事業部長が生まれる文化は根強くありますが、改めてその価値を見直す良い機会かもしれません。

生産管理の経験が経営に活きる理由

なぜ、生産管理の経験が経営層への登竜門となり得るのでしょうか。その理由は、生産管理という仕事が持つ本質的な特性にあります。

第一に、全体最適の視点が養われる点です。生産管理部門は、設計、調達、製造、品質保証、物流といったサプライチェーン全体のハブとして機能します。日々の業務を通じて、特定の工程の効率化(部分最適)だけではなく、製品が顧客に届くまでのプロセス全体を俯瞰し、ボトルネックを解消していく視点が自然と身につきます。この能力は、事業全体の経営資源をいかに配分し、企業価値を最大化するかという経営判断そのものです。

第二に、計数管理能力と問題解決能力です。生産計画、原価、リードタイム、在庫、設備稼働率など、生産管理は常に数字と向き合う仕事です。この経験を通じて培われる計数感覚は、財務諸表を読み解き、的確な投資判断を下すための基礎体力となります。また、予期せぬ設備トラブルや品質問題、納期遅延といった「現場の火事」に日々対応する中で、現実的な問題解決能力が磨かれます。この泥臭い経験こそが、経営の難局を乗り越える上での突破力となるのです。

そして最後に、多様な関係者を巻き込む調整力とリーダーシップが挙げられます。自部門のスタッフはもちろん、他部門や協力会社、時には顧客とも密接に連携し、利害を調整しながら一つの目標に向かってチームを動かしていく能力は、組織全体を率いる上で不可欠なスキルセットと言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の異業種の事例は、日本の製造業における人材育成やキャリア形成を考える上で、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

  • 生産管理部門の戦略的再評価:
    生産管理部門を、単なる日々のオペレーションをこなす部署としてではなく、将来の経営幹部を育成するための戦略的なトレーニングの場として再評価することが重要です。この部署で経験を積むことが、経営への道を開くキャリアパスの一つとして明確に位置づけられるべきでしょう。
  • 意図的なキャリアパスの設計:
    生産管理で実績を上げた人材に対し、営業、開発、購買、財務といった他部門を経験させるジョブローテーションを意図的に行うことで、より複眼的な経営視点を養うことができます。特定分野の専門家を育成することも大切ですが、事業全体を率いるリーダーを育てるためには、部門の壁を越えた経験が不可欠です。
  • 現場リーダーへの期待:
    現在、工場長や現場リーダー、あるいは生産管理の実務に携わっている方々は、自らの仕事が会社の経営に直結しているという意識を持つことが、自身のキャリアを切り拓く上で極めて重要です。日々のQCD管理の先に、全社的な視点を持つことで、新たな役割や責任への道が開けてくるはずです。

デジタル化やグローバル化が進む中で、製造業の経営はますます複雑化しています。このような時代だからこそ、サプライチェーン全体の流れを理解し、現場の現実を踏まえた意思決定ができる「生産管理」の経験者の価値は、今後さらに高まっていくものと考えられます。

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