中国の自動車大手、吉利汽車(Geely)は、ボルボやプロトンなどの買収を通じて急速にグローバル展開を進めています。本記事では、彼らが単にブランドという「殻」を借りるだけでなく、いかにして生産管理やサプライチェーンのノウハウを吸収し、自社の成長エンジンに転換しているのかを、日本の製造業の視点から解説します。
M&Aを「ものづくりの仕組み」獲得の機会と捉える
吉利汽車によるボルボ(スウェーデン)、プロトン(マレーシア)、ロータス(英国)などの買収は、単なる事業規模の拡大やブランド獲得に留まりません。その本質は、各社が長年培ってきた生産技術、品質管理、そしてグローバルなサプライチェーンといった「ものづくりの仕組み」そのものを学び、自社グループ内に取り込むことにあります。元記事で触れられているように、ボルボやプロトンのようなグローバル工場の運営経験は、吉利自身が効果的な生産・供給網を確立する上で、極めて貴重な資産となっているのです。
例えば、ボルボからは世界トップクラスの安全思想や厳格な品質基準を、プロトンからはASEAN市場における生産・販売の知見や部品供給網を吸収しています。これは、日本の製造業が海外企業との提携やM&Aを検討する際に、財務的な側面だけでなく、相手方が持つ無形の製造ノウハウやオペレーション能力をいかに自社に取り込むか、という視点が重要であることを示唆しています。
グローバルサプライチェーンの再構築と最適化
吉利の巧みさは、買収した企業の既存サプライチェーンをそのまま利用するのではなく、グループ全体で再構築し、最適化を図っている点にあります。ボルボが持つ欧州の優良サプライヤー網と、吉利が持つ中国国内のコスト競争力のあるサプライヤー網を戦略的に組み合わせることで、品質とコストを両立したグローバルな調達体制を構築しています。
これは、プラットフォームの共通化や部品のモジュール化といった設計思想と密接に連携しています。異なるブランドの車両であっても、根幹となる部品やシステムを共通化することで、調達における「規模の経済」を最大限に引き出しているのです。地政学リスクの高まりや供給網の寸断が常態化する現代において、特定の地域に依存しない、強靭で多角的なサプライチェーンをいかに構築するかは、あらゆる製造業にとっての課題であり、吉利の取り組みは一つのモデルケースと言えるでしょう。
異文化マネジメントと双方向の技術移転
スウェーデン、マレーシア、英国など、異なる文化背景を持つ企業群を一つのグループとして機能させる上で、吉利は画一的な管理手法を押し付けてはいません。むしろ、各社の独立性や企業文化を尊重しつつ、グループとしてのシナジーを追求する柔軟なガバナンスを実践しているように見受けられます。
特筆すべきは、技術移転が一方通行ではない点です。ボルボの安全・環境技術が吉利ブランドの車両に活かされる一方で、吉利が持つEV(電気自動車)関連の技術や、コストを抑えながら迅速に開発するノウハウがボルボにも提供されています。このように、互いの強みを認め合い、双方向で技術や知見を移転させることが、グループ全体の競争力を高める原動力となっています。これは、海外拠点の運営や海外企業との協業において、現地の強みをいかに引き出し、本社と対等なパートナーとして価値を交換できるか、という重要な問いを我々に投げかけます。
日本の製造業への示唆
吉利汽車の事例から、日本の製造業が学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. M&Aの戦略的再定義:
事業規模の拡大や販路獲得だけでなく、生産技術、品質管理、サプライチェーンといった「オペレーション能力」を獲得するための戦略的手段としてM&Aを捉え直すことが重要です。買収後の統合プロセス(PMI)において、これらの無形資産をいかに自社に移転・融合させるかという計画が成否を分けます。
2. グローバル生産・供給網の動的最適化:
自社単独でのサプライチェーン構築に固執せず、提携先や買収先の持つ拠いや供給網を積極的に活用し、グループ全体で最適化を図る視点が求められます。これにより、コスト競争力と同時に、地政学リスクなどに対する強靭性(レジリエンス)を高めることができます。
3. 「学び、活かす」組織文化の醸成:
海外の優れた技術やノウハウを謙虚に学び、自社のやり方と融合させていく柔軟性が不可欠です。本社から一方的に指導するのではなく、海外拠点やパートナー企業との間で双方向の学びが生まれる関係性を築くことが、グローバル競争を勝ち抜く鍵となります。
4. 多様な文化を束ねるガバナンス:
グローバルに展開する企業グループにおいては、画一的な管理ではなく、各社の自律性や文化を尊重しつつ、グループ全体としての方針を共有する、バランスの取れたガバナンスモデルの構築が不可欠です。現場の強みを最大限に引き出す経営が、全体のパフォーマンスを向上させます。


コメント