創業100年を超える米国のエネルギー技術大手ベーカー・ヒューズ社は、低炭素社会への移行という大きな潮流の中で、デジタル技術を駆使した事業変革を進めています。本稿では、同社のデジタルプラットフォーム戦略を紐解き、日本の製造業が学ぶべき点について考察します。
はじめに:巨大エネルギー企業が迫られる事業の再構築
ベーカー・ヒューズ社は、石油や天然ガスの探査、掘削、生産に関わる機器やサービスを提供する、世界有数のエネルギー技術企業です。しかし、世界的な脱炭素化の流れは、同社のような伝統的なエネルギー企業に、事業のあり方を根本から見直すことを迫っています。このような大きな環境変化に対応するため、同社が注力しているのが、デジタル技術を核とした事業の再構築(リブーティング)です。
事業変革の中核を担うデジタルプラットフォーム「Delfi」
元記事で言及されている同社の旗艦製品の一つが、デジタルプラットフォーム「Delfi」です。これは、エネルギー開発の上流工程、すなわち油田やガス田の探査から生産管理に至るまでの膨大なデータを統合し、分析・活用するための基盤です。具体的には、地下資源の埋蔵量を予測する「貯留層モデリング」、掘削作業を効率化する「掘削最適化」、そして日々の生産量を管理する「生産管理」といった機能を提供しています。
これは、製造業の言葉に置き換えれば、製品の企画・設計段階のシミュレーションから、生産ラインの最適化、そして工場全体の生産管理までを、一つの統合されたプラットフォーム上で実現しようとする試みと捉えることができます。個別のアプリケーションやシステムを導入するのではなく、データを一元的に扱う基盤を構築することで、部門間の壁を越えた全体最適を目指している点が特徴です。これにより、勘や経験に頼っていた部分がデータによって裏付けられ、より精度の高い意思決定が迅速に行えるようになります。
伝統的産業におけるデジタル化の意義
エネルギー開発の現場は、日本の製造現場と同様に、長年の経験を持つ技術者の知見が重要な役割を果たしてきました。ベーカー・ヒューズ社の取り組みは、そうした暗黙知をデジタルデータによって形式知化し、組織全体の競争力に転換しようとするものと言えるでしょう。これは、熟練技術者の高齢化や人手不足といった課題に直面する日本の製造業にとっても、決して他人事ではありません。
また、掘削の最適化や効率的な生産管理は、単にコストを削減するだけでなく、エネルギー消費量や環境負荷を低減することにも直結します。つまり、デジタル化(DX)の推進が、環境対応(GX:グリーン・トランスフォーメーション)の実現にも貢献しているのです。事業効率の向上と社会的な要請への対応を、デジタル技術という軸で両立させている点は、大いに参考になるはずです。
日本の製造業への示唆
今回のベーカー・ヒューズ社の事例から、日本の製造業が実務に活かすべき要点を以下に整理します。
1. DXとGXの統合的推進
デジタル化を、単なる生産性向上のためのツールとして捉えるのではなく、省エネ、CO2排出量削減といった環境課題を解決するための重要な経営基盤として位置づける視点が求められます。製造プロセスのデータを詳細に分析することは、エネルギー効率の改善点や廃棄物削減の機会を発見することに繋がります。
2. 「点」ではなく「面」で捉えるプラットフォーム戦略
特定の工程や設備に個別のIoT機器やシステムを導入する「点の改善」に留まらず、設計から製造、品質管理、出荷、保守といったバリューチェーン全体のデータを連携させる「面の改革」が重要です。サイロ化しがちな各部門のデータを統合するプラットフォームを構想することが、将来の競争優位性を築く上で不可欠となります。
3. 異業種の先進事例から学ぶ姿勢
自社の業界の常識や過去の成功体験に固執せず、エネルギー業界のような全く異なる分野で起きている変革にも目を向けることが重要です。特に、規制や社会的要求によって大きな変革を迫られている業界の取り組みには、自社の未来を考える上でのヒントが多く隠されています。


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