トランプ前政権の関税は米国製造業を復活させたのか?データが示す実態と教訓

global

トランプ前政権が推進した保護主義的な関税政策は、米国の製造業にどのような影響を与えたのでしょうか。米国のシンクタンクや連邦準備制度(FRB)の分析を基に、その実態を冷静に読み解きます。これは、グローバルなサプライチェーンに関わる日本の製造業にとっても、重要な示唆を含んでいます。

保護主義政策の狙いと現実

トランプ前政権は「アメリカ・ファースト」を掲げ、国内の製造業を復活させることを主要な政策目標の一つとしていました。そのための具体的な手段として、中国からの輸入品や、鉄鋼・アルミニウムなど特定の品目に対して高い関税を課す政策が実行されました。この狙いは、輸入を抑制し、国内生産を促進することで、失われた製造業の雇用を取り戻すというものでした。

しかし、政策導入から数年が経過し、その効果を検証する複数の経済分析が公表されています。米国のリバタリアン系シンクタンクであるケイトー研究所のブログ記事では、これらの分析結果を引用し、関税政策は意図した成果を上げるどころか、むしろ米国の製造業にマイナスの影響を与えたと指摘しています。具体的にどのような影響があったのか、データと共に見ていきましょう。

輸入部品のコスト増と報復関税という二重の逆風

米連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストらによる分析では、関税政策が米国の製造業に与えた二つの大きな負の影響が示されています。一つは、輸入される中間財(部品や素材)の価格上昇です。多くの米国メーカーは、製品を組み立てるために海外から部品を調達しており、関税によってそのコストが直接的に増加しました。これは製品価格の上昇や利益率の低下に繋がり、企業の競争力を削ぐ要因となります。

もう一つは、他国による報復関税です。米国が関税を課したことに対し、中国や欧州連合(EU)なども米国製品に対する報復関税を発動しました。これにより、米国の製造業は重要な輸出市場へのアクセスを失い、売上が減少するという打撃を受けました。結果として、関税の影響を強く受けた米国の製造業セクターでは、保護されたはずの国内市場での僅かな利益を、輸出市場の喪失とコスト増が上回り、全体として雇用が減少したと結論付けられています。

鉄鋼関税の事例:川上を保護し、川下の競争力を削ぐ構図

特定産業を保護する政策の難しさは、鉄鋼関税の事例によく表れています。米国の鉄鋼業界を保護するために導入された関税(通商拡大法232条に基づく措置)は、確かに国内の鉄鋼メーカーには一定の追い風となったかもしれません。しかし、その鉄鋼を素材として使用する、より広範な産業にとっては大きな負担となりました。

自動車、産業機械、建設など、鉄鋼を多用する「川下」の製造業は、国内で調達する鉄鋼価格の上昇に直面しました。これにより製造コストが増加し、最終製品の価格競争力が低下しました。ある試算によれば、鉄鋼関税によって鉄鋼・鉄鋼製品業界で創出された雇用に対し、鉄鋼を使用する他業種ではそれをはるかに上回る数の雇用が失われたとされています。これは、サプライチェーン全体を見渡さず、一部分だけを保護しようとする政策の意図せざる結果と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の分析は、政治的な意図で導入される保護主義的な通商政策が、複雑に絡み合ったグローバルサプライチェーンに、いかに予期せぬ悪影響を及ぼすかを明確に示しています。これは、国境を越えて部品調達や製品供給を行う日本の製造業にとっても、決して他人事ではありません。最後に、この事例から我々が学ぶべき点を整理します。

1. サプライチェーンの多角化とリスク評価の重要性
特定の国や地域への依存度が高いサプライチェーンは、こうした政治的リスクに対して非常に脆弱です。関税や輸出入規制は、ある日突然、調達コストの急増や供給の途絶を引き起こす可能性があります。平時からサプライチェーンの可視化を進め、調達先の多角化や代替生産拠点の確保といったリスクシナリオを検討しておくことの重要性が改めて浮き彫りになりました。

2. 「国内回帰」の実現に向けた複合的な視点
製造業の国内回帰は、単に関税で海外製品を排除すれば達成できるものではありません。国内の労働コスト、技術者の確保、エネルギーコスト、そして素材から最終製品に至るまでの産業生態系(エコシステム)全体の競争力が問われます。表面的な保護政策は、かえって国内の川下産業の競争力を削ぎ、産業全体の空洞化を招きかねないという教訓は、日本の政策議論においても重要な視点です。

3. 国際的な通商政策の動向への注視
米国の政策は、世界経済、そして日本の製造業の事業環境に直接的な影響を及ぼします。特に、今後の米国大統領選挙の結果によっては、再び保護主義的な政策が強化される可能性も否定できません。各国の政策動向を常に注視し、自社の事業への影響を分析・予測する体制を整えておくことが、経営層や事業責任者には一層求められるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました