AutodeskがGoogleを商標問題で提訴 ― 製造業DXで高まる「ネーミング」の知財リスク

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設計ソフトウェア大手のAutodesk社が、Google社を商標権侵害で提訴したことが報じられました。この一件は、DX推進に伴いソフトウェア開発やサービス導入が活発化する日本の製造業にとっても、決して他人事ではありません。

ソフトウェアの名称「Flow」を巡る争い

報道によれば、CADソフトウェアなどで知られるAutodesk社は、自社が2022年9月から使用している「Flow」という名称を、Google社が無断で使用し商標権を侵害したとして提訴しました。Autodesk社の「Flow」は、映像などの視覚効果(VFX)や製作工程の管理(プロダクションマネジメント)に関するソフトウェア群の名称として使われています。これは、設計から製造、その後の工程管理まで、一連の「流れ」をデジタルで管理しようとする製造業の取り組みと親和性の高い分野です。

一方で、Google社もAI関連のソフトウェアなどで同様の名称を使用していると見られます。「Flow」という言葉は、データやプロセスの「流れ」を想起させ、ソフトウェアの機能やコンセプトを表現する上で非常に魅力的かつ一般的な単語です。それゆえに、異なる企業が同じような製品カテゴリーで類似の名称を採用してしまい、今回のような紛争に至るケースは少なくありません。

製造業DXの現場で起こりうる「知財リスク」

この一件は、巨大IT企業同士の争いと片付けることはできません。むしろ、日本の製造現場でこそ、同様のリスクが潜んでいると考えるべきです。昨今、多くの企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められており、生産現場でもIoTツールやデータ分析基盤、生産管理システムなどを自社で開発したり、外部ツールを組み合わせて独自の仕組みを構築したりする例が増えています。

こうした自社開発のシステムやツール、あるいは社内の改善プロジェクトに、安易に名称をつけてはいないでしょうか。例えば、工場の生産データの流れを可視化するシステムに「Factory Flow」、部品の供給を最適化する仕組みに「Supply Flow」といった名前をつけることは、自然な発想です。しかし、もしその名称が、すでにソフトウェアや関連サービスとして他社に商標登録されていた場合、意図せずして商標権を侵害してしまう可能性があります。

当初は社内利用限定のツールであっても、将来的に関連会社へ展開したり、サービスとして外販したりする可能性もゼロではありません。その段階になって商標問題が発覚すれば、名称変更やサービスの停止といった事態に追い込まれかねず、事業への影響は甚大です。

自社のブランドと技術を守るために

今回のAutodesk社の提訴は、自社のブランド価値を守るための断固とした姿勢の表れです。製造業においても、自社で開発した独自のシステムやソフトウェアは、重要な経営資源であり、その名称はブランドそのものです。他社の権利を侵害しないという「守り」の視点と同時に、自社の製品やサービスの名称を知的財産として保護するという「攻め」の視点も、これからの事業展開において不可欠となります。

特に、スマートファクトリーやインダストリー4.0といった潮流の中で生まれる新しい技術やサービスは、その名称自体が先進性や独自性を象徴します。開発部門や現場のDX推進チームが新しい取り組みを始める際には、企画の初期段階から知財部門や法務部門と連携し、ネーミングに関するリスクを検討する体制を整えておくことが望ましいでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のニュースから、日本の製造業が実務レベルで得るべき示唆を以下に整理します。

1. 一般的・普遍的な単語の商標リスクを認識する
「Flow」「Smart」「Connect」「Link」など、機能や概念を直接的に示す便利な言葉は、多くの企業が使いたがるため、商標紛争のリスクが高まります。新しい製品やサービス、社内システムに名前を付ける際には、こうした言葉の使用に慎重になるべきです。オリジナリティのある造語なども含めて検討することが、長期的なリスク回避に繋がります。

2. 命名時の商標調査を習慣化する
新しいプロジェクトやツールの名称を決める際には、必ず事前に商標調査を行うプロセスを組み込むべきです。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)などを活用すれば、国内の登録商標を誰でも簡易的に調査できます。たとえ社内ツールであっても、将来の事業展開を見据え、調査を怠らないことが重要です。

3. DX推進部門と知財部門の連携強化
現場主導でスピーディにDXが進む今、開発担当者が知財リスクを十分に認識しないままプロジェクトを進めてしまうケースが懸念されます。企画や開発の初期段階から、知財や法務の専門家が関与できる仕組みを構築し、組織全体で知財リスクを管理する意識を持つことが求められます。

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