韓国の電池大手LGエナジーソリューション(LGES)が、自動車大手ステランティスとの合弁で設立したカナダの電池工場「NextStar Energy」の全株式を取得し、完全子会社化しました。EV市場の成長鈍化が鮮明になる中、大手メーカー間のパートナーシップ戦略が新たな局面を迎えています。
北米最大級のバッテリー工場の所有権移転
LGエナジーソリューション(以下、LGES)は、これまで49%を保有していたステランティスの持ち分を取得し、カナダ・オンタリオ州ウィンザーに建設中の車載用バッテリー工場「NextStar Energy」の経営権を完全に掌握しました。この工場は、年間生産能力45GWhを計画するカナダ最大級のバッテリー生産拠点であり、北米市場における両社のEV戦略の要とされてきました。
背景にあるEV市場の変化と自動車メーカーの戦略
今回の所有権移転の背景には、世界的なEV市場の需要減速があります。当初の急進的な成長予測に陰りが見え始めたことで、自動車メーカー(OEM)はバッテリー調達戦略の柔軟性を高める動きを強めています。ステランティスはLGESだけでなく、サムスンSDIや中国のCATLともバッテリー供給に関する提携を結んでおり、特定サプライヤーへの依存を避ける「マルチソース化」を推進しています。需要の変動リスクを分散させ、調達先の選択肢を増やすことで、コスト競争力と供給安定性を確保する狙いがあると考えられます。今回の株式売却も、こうした調達戦略の見直しの一環と捉えることができます。
主導権を確保するバッテリーメーカーの決断
一方、LGESにとっては、合弁事業という形態から脱却し、単独で工場運営の舵取りを行うことになります。これにより、生産計画、追加投資、技術導入といった意思決定を迅速化できるメリットがあります。また、米国のインフレ削減法(IRA)など、北米での現地生産を優遇する政策インセンティブを最大限に活用する上でも、経営の自由度が高まることは有利に働くでしょう。しかし、これは同時に、巨額の投資リスクと市場の不確実性を単独で引き受けることを意味します。EV市場の先行きが不透明な中、あえてリスクを取って事業の主導権を確保するという、LGESの強い意志がうかがえる動きです。
日本の製造業への示唆
今回の事例は、変化の激しい市場環境における事業戦略のあり方について、我々日本の製造業にもいくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. サプライチェーン戦略の継続的な見直し
EV市場のように需要予測が困難な分野では、顧客である大手メーカーが調達先の多様化を進めることは自然な流れです。これは、特定の顧客や製品に依存するリスクを改めて認識させます。自社の技術や製品を、いかに多様な顧客や市場に展開できるか、事業ポートフォリオを常に評価し、見直していく必要があります。
2. 合弁事業(JV)の光と影
異業種や海外企業との合弁事業は、リスク分散やスピーディーな市場参入に有効な手段ですが、市場環境や両社の経営戦略が変化した際に、方向性の違いが顕在化するリスクを常に内包しています。事業立ち上げの段階で、意思決定プロセスや役割分担だけでなく、将来的な関係解消や株式売買といった「出口戦略」についても、明確な取り決めをしておくことの重要性を示しています。
3. 市場変動下での経営判断の重要性
市場が減速する局面では、投資を抑制する「守り」の姿勢に傾きがちです。しかしLGESは、むしろ経営の主導権を握ることで意思決定の速度を上げ、将来の市場回復期に備える「攻め」の判断を下しました。市場の不確実性が高い時こそ、自社のコア技術と事業の将来性を見極め、時にはリスクを取ってでも競争優位性を確保しようとする戦略的な判断が、経営層には求められます。


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