中国の医薬品添加剤メーカーが、世界で最も厳しいとされる米国FDAの査察を「欠陥ゼロ」で通過したことが報じられました。この事実は、中国企業の品質保証レベルが著しく向上していることを示すと同時に、日本の製造業がグローバル市場で競争する上での品質システムのあり方を再考する契機となります。
中国・山河薬輔、FDA査察を「欠陥ゼロ」で通過
中国の医薬品添加剤メーカーである山河薬輔(Shanhe Pharmaceutical)が、米国食品医薬品局(FDA)による製造所の査察を、指摘事項が一つもない「NAI(No Action Indicated)」、いわゆる「欠陥ゼロ」で完了したと報じられました。FDA査察は、その厳格さで世界的に知られており、特に医薬品や医療機器、食品といった人の健康に直結する製品分野では、市場参入の必須条件となります。指摘事項なしでの通過は、当該工場の品質保証システムが極めて高い水準で運用されていることの客観的な証明であり、これは特筆すべき成果と言えます。
査察対象となった品質システムの全体像
報道によれば、今回の査察では「品質管理」「生産管理」「設備・施設管理」を含む6つの主要システムが対象となりました。これは、FDAが査察で用いる品質システム査察アプローチ(QSIT: Quality System Inspection Technique)の考え方に沿ったものです。FDAの査察は、単に規定や手順書が整備されているかを確認するだけでなく、それらの文書に基づいて業務が現場で確実に実行され、記録され、そして継続的に改善されているかを徹底的に検証します。具体的には、以下のような領域が対象となったと推察されます。
- 品質管理システム (Quality Management System): CAPA(是正措置・予防措置)や変更管理、内部監査、マネジメントレビューなど、品質保証体制の根幹をなす仕組み全体。
- 生産・工程管理システム (Production and Process Controls): 原材料の受け入れから最終製品の出荷まで、一貫した管理下で製造が行われていることを保証する仕組み。バリデーションや逸脱管理も含まれます。
- 設備・施設管理システム (Facilities and Equipment System): 建屋や製造設備、試験機器などが適切に設計・保守・校正され、意図した通りに機能することを保証する仕組み。
これらに加え、一般的には原材料等の管理、試験室の管理、包装・表示の管理といったシステムも評価対象となります。これらのシステムが相互に連携し、全体として機能している状態を構築・維持することが、「欠陥ゼロ」という評価に繋がったと考えられます。日本の製造現場でよく言われる「言うこと、書くこと、行うこと」の三位一体が、高いレベルで実践されていた証左と言えるでしょう。
グローバル競争における品質保証の新たな局面
今回のニュースは、単に一企業の成功事例というだけでなく、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。かつて「安かろう悪かろう」と見なされることもあった中国製品ですが、少なくとも一部のトップ企業においては、品質保証レベルが国際的なトップ水準に達しているという厳然たる事実を突きつけています。特に、医薬品のように規制が厳しく、高度な品質文化が求められる業界でこれを達成した意味は大きいと言えます。
グローバルなサプライチェーンが複雑化する中、もはや国籍で品質レベルを判断する時代は終わりました。日本のメーカーが海外から部品や原材料を調達する際、あるいは海外市場で製品を販売する際、グローバル基準の品質保証体制を自社で構築することはもちろん、サプライヤーの能力を正しく評価し、管理する能力がこれまで以上に求められます。今回の事例は、我々の競争相手やパートナーのレベルが、我々の想定以上に高まっている可能性を示唆しているのです。
日本の製造業への示唆
この一件から、日本の製造業に携わる我々が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
1. グローバル基準での品質システムの再点検
自社の品質マネジメントシステムが、ISO等の国際規格や、FDAのような厳しい規制要求に対して、形式だけでなく実質的に機能しているかを改めて検証する必要があります。文書上は完璧でも、現場での運用実態が伴わなければ意味を成しません。特に、査察を「受ける」ための受動的な対応ではなく、日常業務として品質システムを「使いこなし」、継続的改善に繋げられているかが問われます。
2. 競合環境の変化に対する認識の更新
中国をはじめとするアジア企業の品質、技術、そして規制対応能力の向上は、日本の製造業にとって直接的な競争圧力となります。コスト競争力だけでなく、品質保証力という日本の強みとされてきた領域においても、決して安穏とはしていられない状況です。この現実を直視し、自社の優位性をどこで発揮していくのか、経営戦略レベルでの再検討が求められます。
3. サプライヤー管理の高度化
グローバルに展開するサプライチェーンにおいて、サプライヤーの品質保証体制を評価・監査する能力は、自社の製品品質を維持する上で生命線となります。価格や納期といった従来の指標に加え、相手の品質文化や規制対応能力といった無形の資産をいかに見抜くか。今回の事例は、サプライヤー選定や監査の基準を見直す良い機会となるでしょう。
4. 品質を支える人材の育成
高度な品質システムを運用し、FDAのような厳しい査察に対応するためには、規制要件や品質管理手法を深く理解した専門人材が不可欠です。付け焼き刃の知識ではなく、日々の実践を通じて培われる経験と知見が組織の力となります。体系的な教育訓練プログラムと、知識を継承していく仕組みの構築が急務です。


コメント