規制産業における製造業の変更管理:その重要性と実践のポイント

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医薬品や医療機器、航空宇宙といった規制産業の製造現場では、製品の品質と安全性を担保するため、あらゆる「変更」に対して厳格な管理が求められます。本記事では、こうした環境における変更管理の重要性とその構成要素について、日本の製造業の実務者の視点から解説します。

変更管理とは何か? なぜ重要なのか?

製造業における「変更管理」とは、製品の品質や製造プロセスに影響を与えうる全ての変更を、計画的かつ体系的に管理するための一連の公式な手続きを指します。これには、原材料の仕入れ先変更、製造設備の更新、作業手順の見直し、ソフトウェアのアップデートなど、いわゆる4M(Man, Machine, Material, Method)に関わるあらゆる変更が含まれます。

特に、医薬品、医療機器、自動車の重要保安部品、食品といった人の安全に直結する製品を扱う「規制産業」では、この変更管理が極めて重要になります。なぜなら、些細な変更が意図せず製品の品質、安全性、有効性に影響を及ぼし、リコールや規制当局からの指摘、さらには重大な事故につながるリスクを内包しているからです。したがって、変更がもたらす影響を事前に評価し、リスクを管理した上で、適切な検証を経て導入し、その全プロセスを記録・文書化することが不可欠となります。

規制産業における変更管理の構成要素

効果的な変更管理プロセスは、単なる「変更の承認」だけではありません。一般的に、以下の要素から構成されます。

1. 変更の提起と影響評価
全ての変更は、公式な「変更要求」として提起されるべきです。その際、変更の目的、内容、そしてその変更が品質、コスト、納期、安全性、規制要件などに与える潜在的な影響を多角的に評価します。この初期評価が、その後のプロセスの質を決定します。

2. リスクアセスメント
提起された変更に伴うリスクを、FMEA(故障モード影響解析)などの手法を用いて具体的に特定・評価します。リスクの大きさ(発生頻度と影響度)に応じて、必要な対策を講じ、許容可能なレベルまでリスクを低減させる計画を立てます。

3. 承認プロセス
影響評価とリスクアセスメントの結果に基づき、品質保証、製造、技術、規制関連など、関係各部門の責任者による正式な承認を得ます。誰が、いつ、何を根拠に承認したのかを明確に記録することが重要です。

4. 変更の実施と検証(Validation/Verification)
承認された計画に従い、変更を実施します。実施後は、その変更が意図した通りに機能し、かつ新たな問題を引き起こしていないことを確認するための検証(Verification)や、プロセス全体が期待される結果を生むことを証明する妥当性確認(Validation)を行います。例えば、新しい設備を導入した場合、その設備で製造した製品が品質基準を満たすことをデータで証明する必要があります。

5. 文書化と記録管理
変更要求から影響評価、承認、実施、検証に至るまで、全ての活動と決定事項を文書化し、保管します。これらの記録は、規制当局による査察(監査)への対応や、将来のトラブルシューティングにおいて不可欠な証跡となります。作業標準書や図面など、関連文書の改訂もこのプロセスに含まれます。

6. サプライヤー管理
原材料や部品の供給元(サプライヤー)に関わる変更も、自社の変更管理プロセスに含める必要があります。サプライヤー側での製造プロセスの変更が、自社製品の品質に影響を及ぼす可能性があるため、サプライヤーとの間で変更に関する通知・承認の仕組みを構築しておくことが求められます。

日本の製造現場における課題と留意点

日本の製造現場は、現場主導の継続的改善(カイゼン)を強みとしています。しかし、規制産業においては、良かれと思って行った現場の細かな変更が、正式な変更管理プロセスを経ずに実施されてしまうリスクも考えられます。例えば、「作業効率を上げるために、工具の配置を少し変えた」というような日常的なカイゼンも、製品の品質に影響を与える可能性がゼロでなければ、本来は変更管理の対象となり得ます。

現場の自律的な改善活動の文化を尊重しつつ、どの範囲の変更が公式な手続きを必要とするのか、その基準を明確に定義し、現場の作業者一人ひとりにまでその重要性を周知徹底することが課題となります。形式的な手続きが現場の負担になりすぎないよう、デジタルツールを活用して申請や承認プロセスを効率化することも有効な手段と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

本記事で解説した規制産業における変更管理の考え方は、日本の製造業全体にとっても重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。

  • 「変更」を体系的なプロセスとして捉える:
    場当たり的な変更を避け、影響評価から検証、文書化までを一連の管理されたプロセスとして扱う意識が、品質の安定化につながります。これは、規制産業に限らず、全ての製造業において品質基盤を強化する上で基本となる考え方です。
  • リスクベースのアプローチを徹底する:
    全ての変更には、大小様々なリスクが伴います。変更に着手する前に潜在的なリスクを評価し、対策を講じる習慣は、予期せぬ不具合や手戻りを未然に防ぎます。
  • 文書化とトレーサビリティの重要性を再認識する:
    「なぜその変更を行ったのか」「誰が承認し、どのような検証を行ったのか」を記録として残すことは、規制対応だけでなく、技術・ノウハウの伝承や、将来の品質問題の原因究明においても極めて重要です。
  • 現場の改善活動と公式な変更管理の融合:
    現場の「カイゼン」の勢いを削ぐことなく、品質に重要な影響を与える変更については、公式なプロセスに乗せるための仕組み作りが求められます。両者のバランスを取り、組織全体の品質文化を向上させることが、持続的な競争力の源泉となります。

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