品質と生産、二つの専門性を融合する人材の価値とは

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英国の食品製造業界において、将来を嘱望される人材の能力が注目されています。その核心は「技術的な品質管理の専門知識」と「実践的な生産管理」の融合にあります。本稿では、この二つの専門性を併せ持つ人材が、なぜ現代の製造業において重要なのかを解説します。

英国食品業界で注目される「ハイブリッド人材」

英国の業界誌「Food Manufacture」の記事で、将来の活躍が期待される若手人材が紹介されました。その中で、あるドーナツメーカーの成長を支えた人物の能力として「技術的な品質管理の専門知識(technical quality control expertise)」と「実践的な生産管理(hands-on production management)」を融合させている点が挙げられています。これは、単に二つのスキルを持っているということ以上の意味を持ちます。

「品質の専門家」と「生産の現場監督」を一人でこなす意味

日本の製造現場においても、品質管理部門と生産管理・製造部門は、それぞれの専門性を持って業務にあたっています。品質管理は、規格や基準に基づき、科学的なデータを用いて製品の品質を保証する役割を担います。一方、生産管理は、人・モノ・設備を動かし、計画通りに効率よく製品を生産する、いわば現場の司令塔です。

しかし、組織が大きくなるほど、両者の間には役割分担の壁が生まれがちです。品質部門は「なぜ不良が出るのか」という原因究明に注力し、製造部門は「どうすれば計画数を達成できるか」という効率性を追求します。時には、両者の視点がぶつかり、迅速な問題解決の妨げになることさえあります。

今回注目された人材は、この二つの役割を一人の中で体現しています。つまり、品質に関する深い技術的知見を持ちながら、同時に生産現場の現実――人の動き、設備の制約、作業の段取り――を熟知しているのです。このような人物は、机上の空論ではない、現場で実行可能かつ品質向上に資する具体的な改善策を打ち出すことができます。

専門性の融合がもたらす価値

では、具体的にどのような価値が生まれるのでしょうか。例えば、ある製品で不良率が上昇したとします。品質管理の知識だけでは、分析データから原因を特定できても、現場の生産性を落とさずに実行できる対策を立案するのは難しいかもしれません。逆に、生産管理の視点だけでは、目先の生産量を優先するあまり、品質問題の根本原因を見過ごしてしまう恐れがあります。

二つの専門性を併せ持つ人材は、不良の根本原因を技術的に分析しつつ、その対策を生産ラインのどの工程に、どのような手順で組み込むのが最も効率的かを判断できます。製造部門の担当者に対しても、品質の観点と生産の観点の両方から、納得感のある指示や指導を行うことができるでしょう。これは、部門間の不要な対立を避け、工場全体として品質と生産性の両立という目標に向かう上で、非常に大きな推進力となります。

日本の製造業への示唆

今回の事例は、日本の製造業における人材育成や組織のあり方を考える上で、多くの示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。

1. ハイブリッド人材の育成
品質管理と生産管理は、本来は車の両輪です。しかし、キャリアパスが固定化されると、一方の専門知識に偏りがちになります。ジョブローテーションを意図的に行い、品質担当者に生産現場の経験を、製造担当者に品質管理の業務を経験させるなど、両方の視点を持った人材を育成する仕組みが重要です。特に、将来の工場長や現場リーダー候補には、このような複合的な経験が不可欠と言えるでしょう。

2. 組織の壁を越えた連携の促進
優れた個人に依存するだけでなく、組織として品質と生産の連携を強化する工夫も求められます。例えば、品質保証部門のメンバーが製造部門の工程改善チームに常時参加する、あるいは製造技術者が品質データの分析手法を学ぶ研修を受けるなど、部門の垣根を越えた知識や経験の共有を制度として後押しすることが有効です。

3. 経営層の役割
経営層や工場長は、「品質か、生産性か」という二者択一の思考に陥るのではなく、「高い品質が良い生産性を生む」という思想を現場に浸透させることが求められます。そして、その思想を体現できる人材、すなわち品質と生産の両方に精通した人材を正しく評価し、要職に登用していくことが、企業の持続的な競争力強化につながると考えられます。

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