英国の工作機械メーカーが次回の展示会で5軸加工機を前面に押し出す計画です。この動きは、複雑形状加工という特殊用途だけでなく、多品種少量生産における段取り改善や精度向上といった、製造現場が抱える普遍的な課題解決の鍵として、5軸加工技術の重要性が増していることを示唆しています。
欧州市場における5軸加工への関心の高まり
英国の工作機械メーカーであるXYZ Machine Tools社が、2026年に開催される南イングランド製造業・エレクトロニクス展(Southern Manufacturing & Electronics 2026)において、5軸マシニングセンタを主力製品として展示する計画であることが報じられました。これは一企業の展示計画ではありますが、欧州の製造業市場において、5軸加工技術への関心と期待が依然として高いことを示す一つの事例と言えるでしょう。特に、段取り時間の短縮や加工精度の向上といった、生産性向上に直結する利点に焦点が当てられている点は注目に値します。
改めて考える、5軸加工がもたらす現場へのメリット
5軸加工機は、言うまでもなくX・Y・Zの直線3軸に加え、回転・傾斜の2軸を持つ工作機械です。その最大の特長は、一度のワーク固定(チャッキング)で、多面的なアプローチが可能になる点にあります。これにより、現場にもたらされるメリットは多岐にわたります。
第一に、段取り時間の抜本的な削減です。3軸加工機では複数回必要だった段取り替えが1回で済むため、機械の非稼働時間が大幅に短縮されます。これは、近年の多品種少量生産が主流となる市場環境において、生産リードタイム短縮とコスト削減に直接的に貢献します。
第二に、加工精度の向上です。ワークの付け替えを繰り返すと、どうしても位置決めの累積誤差が発生しやすくなります。ワンチャッキングで全工程を完了できる5軸加工は、この誤差要因を原理的に排除できるため、部品の幾何公差をより厳しく管理することが可能になります。
そして第三に、工具の最適利用と加工品質の安定です。工具をワークに対して最適な角度で傾けることができるため、突き出し量を短くでき、びびり振動を抑制できます。これにより、加工面の品位が向上するだけでなく、工具寿命の延長や、より積極的な切削条件の設定も可能になります。
日本の製造現場における現状と課題
日本の製造現場、特に中小規模の工場においても5軸加工機の導入は着実に進んでいます。航空宇宙や医療、金型といった分野では不可欠な設備となっていますが、一般的な部品加工においては、依然として3軸加工機が主力の現場も少なくありません。その背景には、高額な設備投資に加え、複雑な加工プログラムを作成するCAMオペレーターの育成や、5軸加工特有の治具設計ノウハウの習得といった、人的・技術的な課題が存在します。
しかし、国内でも深刻化する人手不足や、製品の高付加価値化への要求を考慮すれば、工程集約と自動化を同時に実現できる5軸加工は、避けては通れない技術テーマです。単に「複雑なものが削れる機械」としてではなく、「生産プロセス全体を効率化するソリューション」として、その価値を再評価する必要があるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の英国メーカーの動向は、私たち日本の製造業関係者にとっても重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
要点:
- 欧州市場においても、5軸加工は生産性向上のための重要な手段として認識されている。
- その価値は、複雑形状加工能力だけでなく、段取り時間削減や精度向上といった、より普遍的な生産効率の改善にある。
実務への示唆:
- 経営層・工場長へ:今後の設備投資を検討する際、5軸加工機を単体の設備としてではなく、工場の自動化や多品種少量生産への対応力を高めるための戦略的投資として位置づける視点が重要です。費用対効果を、機械の価格だけでなく、段取り工数削減による稼働率向上や、品質安定による後工程の負荷軽減といった、工場全体のキャッシュフロー改善に与える影響まで含めて評価することが求められます。
- 現場リーダー・技術者へ:5軸加工技術の導入・活用は、CAMのプログラミングスキルや、干渉を避けるための治具設計など、新たな技術習得を伴います。メーカー主催のセミナーや外部講習会などを活用し、計画的に技術者のスキルアップを図ることが不可欠です。また、既存の3軸加工で行っている製品を題材に、「もし5軸機で加工したら、工程やリードタイムはどう変わるか」といった机上検討やシミュレーションを行ってみることも、その導入効果を具体的に理解する上で有効な手段となります。


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