世界的にPFAS(有機フッ素化合物)への規制が強化される中、製造業はサプライチェーンに潜むリスクの把握という困難な課題に直面しています。本稿では、この「見えざるリスク」をAI技術で可視化し、管理する新たなアプローチについて解説します。
世界で急速に進むPFAS規制とその背景
PFAS(有機フッ素化合物)は、その優れた撥水性、撥油性、耐熱性から、半導体、自動車部品、コーティング剤、包装材など、幅広い工業製品に利用されてきました。しかし、自然界でほとんど分解されず、環境や人体に蓄積しやすい性質から「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれ、近年、その健康への影響が世界的に問題視されています。これを受け、米国や欧州連合(EU)では、PFASの製造や使用、製品への含有を厳しく制限する法規制が急速に整備されています。特に輸出を手がける日本の製造業にとって、これはもはや対岸の火事ではなく、直接的な事業リスクとなりつつあります。
サプライチェーンに潜む「PFASの死角」
製造業が直面する最も大きな課題は、自社の製品にPFASが「どこで」「どれだけ」使われているかを正確に把握することの難しさです。PFASは、最終製品に直接添加されるだけでなく、製造工程で使用される潤滑剤や、サプライヤーから調達する部品のコーティング材など、意図しない形でサプライチェーンに組み込まれているケースが少なくありません。Tier2、Tier3と遡る複雑な供給網の末端まで、含有情報を正確に追跡するのは至難の業です。従来の、サプライヤーへの調査票やSDS(安全データシート)の確認といった手法だけでは、サプライチェーンの深部に潜むPFASを完全に洗い出すことは困難であり、多くの企業にとって大きな「死角」となっているのが現状です。
AI活用によるリスク管理の新たなアプローチ
こうした複雑な課題に対し、AI(人工知能)を活用してPFASリスクを管理する新しいソリューションが登場しています。例えば、米EcoPulse社が開発した「PFAS AI」のようなツールは、企業の持つ膨大なデータ、例えばBOM(部品表)、製品仕様書、サプライヤー情報などを解析します。AIは、化学物質のデータベースや各国の規制情報とこれらのデータを照合し、どの部品や材料にPFASが含まれている可能性が高いかを予測・特定します。これにより、企業は闇雲に調査を行うのではなく、リスクの高い箇所に優先順位をつけて、効率的に調査や対策を進めることが可能になります。人手では時間とコストがかかりすぎていたサプライチェーン全体のスクリーニングを、AIが高速かつ高精度で支援することで、規制対応の迅速化や代替材料への切り替え検討を加速させることが期待されます。


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