インドの電動二輪市場で、設立からわずか数年でトップシェアを獲得したOla Electric社。その急成長の裏で、同社は価格改定や大手メーカーの参入、政府の政策変更といった厳しい現実に直面しています。本稿では、同社の事例をもとに、新興市場における事業展開の要点と日本の製造業が学ぶべき視点を解説します。
インド市場を席巻する新興EVメーカー
インドの配車サービス大手OlaからスピンアウトしたOla Electric社は、2017年の設立以降、インドの電動二輪市場において驚異的なスピードで存在感を高めてきました。同社は「フューチャーファクトリー」と名付けた世界最大級の二輪車工場を建設し、圧倒的な生産能力を背景に市場シェアを急速に拡大。その斬新なデザインとデジタルを活用した販売手法は、インドの若者層を中心に強く支持されています。
事業環境の急変と経営の舵取り
しかし、その道のりは決して平坦ではありません。元記事が示唆するように、同社は複数の厳しい経営課題に直面しています。一つは、政府によるEV購入補助金(FAME-IIスキーム)の削減です。これにより、Ola Electric社をはじめとする各社は製品価格の引き上げを余儀なくされました。補助金に依存した価格戦略の脆弱性が露呈した形です。日本の製造業においても、特定の政策や補助金を前提とした事業計画がいかに危ういものであるか、改めて認識させられます。
さらに、インド国内の主要な二輪車メーカー(OEM)が、本格的にEV市場へ参入し始めたことも大きな脅威です。Hero MotoCorp、Bajaj Auto、TVS Motorといった既存の大手は、長年培ってきた生産ノウハウ、強固な販売・サービス網、そしてブランドへの信頼という点で、新興のOla Electric社にはない強みを持っています。先行者としての勢いだけでは乗り切れない、総合力が問われるステージへと競争が移行しつつあるのです。
生産・品質面から見た課題
Ola Electric社の「フューチャーファクトリー」は、その規模と自動化率の高さで注目を集めました。しかし、生産の急激な立ち上げは、品質管理の面で課題を生んだことも報じられています。初期の製品にはソフトウェアの不具合や、部品の組み立て品質に関する問題が散見され、一部では車両火災といった深刻な事態も発生しました。これは、生産規模の拡大を急ぐあまり、工程の作り込みや作業者の習熟が追いついていない可能性を示唆しています。
日本の製造業が強みとしてきた、現場での地道な改善活動や、サプライヤーと一体となった「すり合わせ」による品質の作り込みは、こうした大規模かつ急激な生産立ち上げにおいてこそ、その真価が問われると言えるでしょう。最新鋭の設備を導入するだけでは、安定した高品質なものづくりは実現できないという、製造業の原理原則を再確認させられる事例です。
日本の製造業への示唆
Ola Electric社の挑戦と直面する課題は、グローバル市場、特に成長著しい新興国で事業を展開する日本の製造業にとって、多くの実務的な示唆を与えてくれます。
1. 補助金に依存しない事業構造の構築:
政府の政策は常に変動するリスク要因です。補助金がなくても顧客に選ばれる製品価値と、それを実現するコスト競争力を持つことが、持続的な成長の鍵となります。設計段階からの原価低減や、サプライチェーン全体の効率化が不可欠です。
2. 「規模の追求」と「品質の安定」の両立:
巨大工場の建設や急激な増産は、品質の不安定化というリスクを内包します。生産ラインの垂直立ち上げにおいては、工程設計の熟度、作業者の訓練、品質保証体制の確立を、計画に織り込んでおく必要があります。日本の現場が持つ、QCサークル活動やなぜなぜ分析といったボトムアップの品質改善手法は、こうした局面で有効な武器となり得ます。
3. 既存大手と新興企業の双方を睨んだ戦略:
新興市場では、Olaのような破壊的イノベーターと、地場の大手企業が競合・共存します。部品メーカーや設備メーカーにとっては、両者ともが顧客となり得ます。それぞれが持つ技術、スピード感、品質基準、商習慣の違いを深く理解し、アプローチを変えていく柔軟性が求められます。
4. サプライチェーンの垂直統合という選択肢:
Ola Electric社は、EVの心臓部であるバッテリーセルの自社生産にも乗り出しています。これは、サプライチェーンの安定化とコスト削減、そして技術的な主導権確保を狙った動きです。基幹部品の内製化は、莫大な投資を伴いますが、事業の根幹を強化する上で重要な戦略的選択肢の一つとして、今後も検討していくべきテーマでしょう。


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