一見、製造業とは無関係に思えるエンターテインメント業界。しかし、大規模なコンサートやイベントを成功に導く「プロダクションマネージャー」の求人情報から、我々の生産管理や工場運営に通じる普遍的な要件を読み解くことができます。
エンターテインメント業界における「プロダクションマネージャー」
先日、海外のエンターテインメント企業の求人情報に目を通す機会がありました。それは、コンサート会場の運営責任者である「プロダクションマネージャー」を募集するものでした。求められる経験として「エンターテインメント会場でのプロダクションマネジメント、ツアーマネジメント、ステージマネジメント」などが挙げられていました。
この「プロダクションマネージャー」という職務は、製造業における工場長や生産管理部長の役割と極めて近いものと捉えることができます。コンサートやライブという「製品」を、定められた納期(開演時間)までに、予算内で、最高の品質(観客の満足)で提供する。そのために、機材、資材、そして何より多様な専門性を持つ人材を束ね、現場全体を指揮・管理する役割を担っています。
製造業の生産管理と通じるスキルセット
求人内容を製造業の視点で読み解くと、多くの共通点が見えてきます。
プロダクションマネジメントは、まさに生産管理そのものです。イベント全体の計画立案、予算策定、技術仕様の決定、安全管理など、QCD(品質・コスト・納期)を最適化する活動は、我々の日常業務と何ら変わりありません。
ツアーマネジメントは、サプライチェーンマネジメントの能力と言い換えることができるでしょう。複数の都市を巡るツアーでは、膨大な機材や人員を、次の公演地に間違いなく、時間通りに移動させなければなりません。物流計画、協力会社の管理、そして移動先での迅速な設営(ラインの立ち上げ)など、グローバルなサプライチェーンを管理する上で求められる能力と酷似しています。
そしてステージマネジメントは、本番中の現場指揮に他なりません。音響、照明、映像、出演者といった各セクション間の連携を密にし、刻一刻と変わる状況の中で的確な判断を下し、予期せぬトラブルに対応する。これは、製造ラインにおけるリアルタイムでの進捗管理や、突発的な設備不具合への対応など、現場リーダーに求められる即応力や問題解決能力そのものです。
「一品生産」を成功に導く総合力
コンサートやイベントは、一つとして同じものはありません。会場の規模や形状、演目、観客の反応など、常に条件が異なる「一品生産」の連続です。このような不確実性の高い環境下で、常に高い品質を保ち、プロジェクトを成功に導くには、緻密な計画力と同時に、現場での柔軟な対応力が不可欠となります。
これは、特殊仕様品の受注生産や、新規生産ラインの立ち上げ、工場のDXプロジェクトといった、定常業務とは異なるプロジェクト型の業務を推進する上で、我々製造業の技術者や管理者が直面する課題と共通しています。多様な専門家集団をまとめ上げ、一つのゴールに向かって推進していくリーダーシップと調整能力が、業界を問わず成功の鍵を握っていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
この異業種の事例から、我々が再認識すべき点を以下に整理します。
1. 部門横断的な調整・統率能力の重要性
技術が高度化・専門分化するほど、設計、製造、品質、調達といった各部門を俯瞰し、プロジェクト全体を最適化する管理者の役割は重要になります。プロダクションマネージャーのように、多様な専門家を束ね、目標達成に導く総合的なマネジメント能力を、次世代のリーダー育成において重視すべきでしょう。
2. 不確実性への対応力と現場力
サプライチェーンの混乱や顧客ニーズの急な変更など、現代の製造業は常に不確実性に晒されています。定められた計画を遂行するだけでなく、予期せぬ事態に迅速かつ的確に対応できる「現場力」は、企業の競争力を左右します。イベント運営におけるトラブルシューティングの考え方は、我々の現場改善活動にもヒントを与えるかもしれません。
3. プロジェクトマネジメント視点の強化
日々の量産管理だけでなく、新製品の立ち上げや設備投資、改善プロジェクトといった非定常業務を成功させる能力が、今後ますます求められます。期限と予算が厳格に定められた中で、成果を出すエンターテインメント業界のプロジェクト遂行手法には、学ぶべき点が多くあると考えられます。
一見すると全く異なる業界の取り組みであっても、その本質を深く洞察することで、自社の課題解決や人材育成のヒントが見つかることがあります。広い視野を持ち、他分野の優れた知見を謙虚に学ぶ姿勢が、これからの日本の製造業には不可欠ではないでしょうか。


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