海外の乳製品大手企業の求人情報から、生産現場とサプライチェーン上流を一体で管理する新しい管理会計の姿が見えてきました。本記事では、この事例をもとに、日本の製造業における組織やデータ活用のあり方について考察します。
「生産」と「原料調達」を一体で管理する役割
先日、フランスに本拠を置く世界的な乳製品メーカー、ラクタリス社の求人情報が公開されました。注目すべきはその職種名、「Industrial and Milk Collection Management Accountant」です。直訳すると「産業(工場)および生乳集荷の管理会計担当者」となります。
これは、単なる工場の原価計算担当者とは一線を画す役割です。「Industrial」は工場の生産活動を、「Milk Collection(生乳集荷)」はサプライチェーンの最も上流にあたる原料調達を指しています。つまりこのポジションは、原料の調達から工場の生産に至るまでの一連のプロセスを、管理会計の視点から一気通貫で担当することが期待されていると考えられます。日本の製造現場では、調達・購買部門、生産管理部門、そして原価計算を行う経理部門は、それぞれ独立して業務にあたることが一般的です。しかしこの事例は、サプライチェーンの上流から製造現場までを俯瞰し、コストや効率性を最適化しようとする明確な意図を示していると言えるでしょう。
データに基づいた統合管理の実際
この求人の職務内容には、「月次の工場および生乳集荷のファイルを、会計カレンダーに従い、IPM(Industrial Production Management)システムへタイムリーにアップロードすること」という記述があります。IPMは、その名の通り生産管理システムを指すと考えられます。
この一文から、同社が生産と原料調達に関するデータをIPMという単一のプラットフォームに集約し、管理している実態がうかがえます。そして、会計カレンダーに沿って月次で迅速にデータを更新することは、月次決算や業績評価のスピードを上げ、データに基づいた迅速な経営判断を行うための基盤となっていることを示唆しています。部門ごとにデータがサイロ化するのではなく、統合されたデータ基盤の上で、サプライチェーン全体を視野に入れた分析や意思決定が行われている様子が目に浮かびます。
縦割り組織の壁を越えるために
日本の製造業の多くは、機能別に最適化された「縦割り」の組織構造を持っています。それは各部門の専門性を高める上で有効でしたが、一方で、部門間の連携不足やデータの分断といった課題を生むことも少なくありません。例えば、調達部門はコスト削減のために仕入先やロットサイズを変更し、その結果、製造部門の段取り替えが増えて生産効率が落ち、結果として全体のコストが上昇してしまう、といった事態は多くの現場で経験があるのではないでしょうか。
ラクタリス社の事例は、こうした課題に対し、組織の仕組みそのもので対応しようとするアプローチと言えます。生産と調達の両方に責任を持つ管理会計担当者を置くことで、部分最適に陥ることなく、サプライチェーン全体での最適解を追求することが可能になります。もちろん、一人の担当者にすべてを担わせるのではなく、部門を横断するプロジェクトチームを組成したり、各部門が共有するKPI(重要業績評価指標)を設定したりすることも有効な手段です。
日本の製造業への示唆
今回の海外事例から、日本の製造業が学ぶべき点は少なくありません。以下に要点を整理します。
1. サプライチェーン全体のコスト可視化:
工場の製造原価だけでなく、原料の調達コストや物流費、在庫コストまで含めたサプライチェーン全体のコストを一体として捉え、可視化する仕組みが重要です。これにより、真のコストドライバーがどこにあるのかを的確に把握できます。
2. 組織・人材のあり方の見直し:
従来の機能別の縦割り組織の壁を越え、プロセス全体を俯瞰できる人材の育成や、部門横断的な役割・組織の設置が求められます。生産、調達、会計といった複数の専門知識を併せ持つ人材は、企業の競争力を大きく左右するでしょう。
3. データ駆動型の管理体制への移行:
勘や経験だけに頼るのではなく、ERPや生産管理システムなどを活用して得られるデータを、迅速な意思決定に活かす文化と仕組みを構築することが不可欠です。部門間で分断されているデータを統合し、誰もが同じ情報を見て議論できる環境を整えることが第一歩となります。


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