Identiv社、RFID製品の製造拠点をタイへ移管完了 – サプライチェーン再編の新たな動き

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RFID技術を手掛ける米Identiv社が、タイ・バンコクの新施設への製造移管を完了したと発表しました。この動きは、地政学的リスクを背景としたサプライチェーンの再編と、成長が見込まれる特定製品分野への生産能力集中の動きとして注目されます。

Identiv社、タイ・バンコクへの製造移管を完了

デジタルセキュリティおよびIoT(モノのインターネット)分野で事業を展開するIdentiv社は、タイのバンコクに新設した製造施設への生産移管を完了したことを公表しました。この移管は、同社の主力製品であるRFID(Radio-Frequency Identification)やBLE(Bluetooth Low Energy)関連製品の生産能力を強化することを目的としています。

元記事によれば、新施設では複数の部品を組み合わせる「多部品製造(multicomponent manufacturing)」能力が強化されるとのことです。これにより、物流追跡(トラッキング)、セキュリティ、ヘルスケア分野で利用される、より複雑で高機能なデバイスの生産に対応していくものと見られます。これは、単なるコスト削減を目的とした移転ではなく、特定の成長分野における生産体制を戦略的に再構築する動きと捉えることができます。

背景にあるサプライチェーンの多様化と「チャイナ・プラスワン」

今回のIdentiv社の動きは、近年の製造業における大きな潮流であるサプライチェーンの多様化、いわゆる「チャイナ・プラスワン」戦略の一環として解釈することができます。米中間の貿易摩擦をはじめとする地政学的リスクの高まりを受け、多くのグローバル企業が生産拠点を中国一極集中から東南アジア諸国などへ分散させる動きを加速させています。

中でもタイは、安定した工業インフラ、比較的豊富な労働力、そして自動車や電子部品産業の集積といった強みがあり、生産拠点として有力な選択肢の一つとなっています。日本の製造業にとっても馴染みの深い国であり、今回の事例は、海外生産拠点の選定における一つの参考となるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のIdentiv社の事例から、日本の製造業が学ぶべき点はいくつか考えられます。

1. サプライチェーンの継続的な見直しとリスク分散
地政学的リスクや自然災害など、サプライチェーンを脅かす要因は常に存在します。特定の国や地域への過度な依存を見直し、生産拠点の多様化を継続的に検討することは、事業継続計画(BCP)の観点からも極めて重要です。今回のタイへの移管は、その具体的な一例と言えます。

2. 成長分野への戦略的生産シフト
単なるコスト削減だけでなく、自社のどの製品群が将来の成長を牽引するのかを見極め、その生産に最適な場所へリソースを集中させることが求められます。Identiv社がRFIDやBLEといったIoT関連製品の生産能力を強化したように、自社の製品ポートフォリオと生産拠点の戦略的な整合性を図ることが、競争力を維持・向上させる鍵となります。

3. 海外拠点移管における実務的課題への備え
生産拠点の移管は、計画から実行、そして安定稼働まで多くのハードルを伴います。設備の移設や立ち上げはもちろんのこと、現地での人材採用と育成、品質管理システムの構築、そして現地の法規制や文化への対応など、乗り越えるべき課題は多岐にわたります。こうした課題を事前に洗い出し、周到な計画を立てることが、移管プロジェクトを成功に導くためには不可欠です。

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