米国の消防車製造業界において、複数の大手メーカーが供給量を制限し価格を不正に吊り上げたとして、大規模な訴訟に発展している模様です。この一件は、業種を問わず、我々日本の製造業が遵守すべき独占禁止法とコンプライアンス体制のあり方について、改めて考えるべき重要な示唆を与えています。
米国で表面化した大手メーカーによる価格カルテル疑惑
報道によれば、米国の複数の大手消防車メーカーと業界団体が、共謀して製品の供給を抑制し、価格を不当に引き上げた疑いが持たれています。これは、市場の健全な競争を阻害する「価格カルテル」と呼ばれる行為であり、独占禁止法に違反する可能性が極めて高いものです。特定の企業グループが市場を支配し、人為的に価格を操作することは、最終顧客である自治体や消防機関、ひいては納税者に不当な負担を強いることになります。今回の訴訟は、このような不正行為に対して厳しい目が向けられていることを示しています。
製造業にとって「カルテル」は対岸の火事ではない
製品の仕様がある程度標準化され、市場が少数の大手企業によって占められている寡占状態の業界では、カルテルが発生しやすい土壌があると言われます。同業他社との情報交換が、価格や生産量といった競争上機微な情報に及んでしまうケースは少なくありません。日本の製造業においても、長年の業界慣行や、業界団体・組合での非公式な会合などを通じて、意図せず独占禁止法に抵触するような情報交換が行われてしまうリスクは常に存在します。特に、価格改定のタイミングや値上げ幅について、競合他社と足並みを揃えようとする動きは、たとえ暗黙の了解であったとしても、当局から厳しく追及される対象となり得ます。
業界団体との関わり方とコンプライアンス体制の再点検
今回の米国の事例では、メーカーだけでなく業界団体も関与が疑われています。業界団体は、技術標準の策定や情報共有、政府への提言など、業界の発展に不可欠な役割を担っています。しかしその一方で、同業他社が一堂に会する場であるため、価格や生産計画といった競争に関する情報交換の温床となりやすい側面も持っています。自社の従業員が業界団体の会合に出席する際の行動規範を明確に定め、議事録の作成を徹底し、不適切な議題が提起された際には明確に異議を唱え退席する、といった具体的なルールを整備・周知することが不可欠です。これを機に、自社の独占禁止法に関するコンプライアンス教育や、営業部門における価格決定プロセスの透明性を改めて見直すことが求められます。
日本の製造業への示唆
今回の米国の事例は、グローバルに事業を展開する企業はもちろん、国内市場が中心の企業にとっても重要な教訓を含んでいます。以下に、我々が実務上留意すべき点を整理します。
1. 独占禁止法コンプライアンス教育の徹底:
経営層から営業担当者、技術者に至るまで、どのような行為がカルテルとみなされるのか、具体的な事例を交えた研修を定期的に実施することが重要です。特に、競合他社の担当者との接触における禁止事項(価格、生産量、販売地域に関する情報交換など)を明確に周知する必要があります。
2. 価格決定プロセスの透明化と記録:
自社の製品価格が、あくまで原材料費、製造コスト、市場の需要動向といった正当な根拠に基づいて独立して決定されていることを、客観的に説明できる体制を構築することが求められます。価格改定の経緯や理由は、必ず文書として記録・保管しておくべきです。
3. 業界団体・会合への参加ルールの厳格化:
業界団体の会合に参加する際は、事前に議題を確認し、競争法上問題のある議題が含まれていないかチェックするプロセスを設けるべきです。万が一、会合中に不適切な会話が始まった場合は、その場から離席し、上長や法務部門に報告することを義務付けるなど、厳格なルールを運用する必要があります。
4. サプライチェーン全体での健全性確保:
自社がカルテルに加担しないことは当然ですが、同時に、重要な部品や原材料を供給するサプライヤーがカルテルを結んでいないか、常に注意を払う視点も必要です。不自然な価格高騰や品不足が続く場合は、その背景を慎重に調査することも、サプライチェーン管理の一環と言えるでしょう。


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