一見、製造業とは縁遠い映画・テレビ制作の世界で、専門的な環境人材の育成が始まっています。フィンランドの取り組みから、現場主導でサステナビリティを推進するためのヒントを探ります。
異業種における環境専門人材の育成
北欧フィンランドの応用科学大学が、映画やテレビ制作の経験者を対象とした「持続可能な制作」に関するコースを提供していることが報じられました。このコースの目的は、制作現場における環境負荷低減を主導する「環境コンサルタント」を育成することにあるようです。一見、華やかなエンターテイメント業界の取り組みですが、その本質は我々製造業にも通じる、重要な示唆を含んでいます。
「プロジェクト型製造業」として捉える映画制作
映画やテレビ番組の制作は、短期間に多くの資源を投入し、特定の成果物(作品)を生み出すという点で、一種の「プロジェクト型製造業」と見なすことができます。ロケ地の選定からセットの設営、撮影機材の輸送と稼働、大量の電力消費、そして撮影終了後の廃棄物処理まで、そのプロセスは多岐にわたり、環境に与える影響も決して小さくありません。こうした現場に、環境に関する専門知識を持った人材を配置し、企画段階から廃棄に至るまでの全工程で環境配慮を徹底しようというのが、この取り組みの狙いでしょう。これは、新製品の立ち上げや特定の製造ラインの運営において、環境負荷をいかに管理・低減していくかという、製造現場が抱える課題と本質的に同じ構造を持っています。
現場の意思決定に関与する専門家の重要性
特筆すべきは、「環境コンサルタント」という専門職の役割です。これは、単に環境方針を策定するだけでなく、制作現場の様々な意思決定に深く関与する役割を担うと考えられます。例えば、使用する資材の選定、エネルギー効率の高い機材の導入、廃棄物のリサイクル計画の立案、サプライヤーとの連携など、具体的なアクションプランを現場の担当者と共に考え、実行していくことが求められます。製造業においても、環境管理部門が策定した目標を現場に下ろすだけでは、実効性のある活動にはつながりにくいという経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。生産技術や品質管理の専門家が現場にいるように、環境の専門家が現場の実情を理解し、共に改善を進める体制は、目標達成の確度を大きく高めるはずです。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
1. プロジェクト単位での環境負荷管理の徹底
全社的なESG目標に加え、新製品の開発や工場の設備更新といった個別のプロジェクト単位で、環境負荷の目標設定と管理を行う視点が有効です。各プロジェクトに環境責任者を配置し、企画から実行、評価までを一貫して担当させることで、より具体的で実効性のある取り組みが期待できます。
2. 現場の実務に精通した環境専門人材の育成
環境に関する専門知識と、自社の生産プロセスや現場業務への深い理解を併せ持つ人材の育成が急務です。外部から専門家を招聘するだけでなく、現場経験豊富な技術者やリーダー層に環境教育を施し、社内の「環境コンサルタント」として育成していくアプローチが考えられます。
3. 環境配慮を「標準業務」に組み込む文化の醸成
環境負荷の低減を、特別な活動ではなく、品質管理や原価管理と同様の「当たり前の業務」として現場に定着させることが重要です。QCサークル活動などの既存の改善活動のテーマに環境の視点を加える、あるいは日常の業務プロセスの中に環境チェックの項目を組み込むといった工夫が求められるでしょう。
エンターテイメントという全く異なる分野での先進的な取り組みは、ともすれば固定観念に陥りがちな我々の視点を変える良いきっかけとなります。現場の実務と専門知識を融合させ、持続可能なものづくりを推進していく上で、大いに参考になる事例と言えるでしょう。


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