従来の3Dプリンティングが持つ積層方式の概念を覆す「体積積層造形(VAM)」という技術に、新たな進展がありました。化学的なアプローチを用いることで、造形速度だけでなく材料の物性をも向上させる可能性が示され、製造業におけるAM技術の応用範囲を大きく広げるものとして注目されます。
従来の3Dプリンティングとの根本的な違い
これまで製造現場で活用されてきたアディティブ・マニュファクチャリング(AM)、いわゆる3Dプリンティング技術は、その多くが材料を一層ずつ積み重ねて立体物を造形する「積層造形」方式でした。この方式は複雑な形状を一体で製造できる利点がある一方、造形に時間がかかることや、層と層の間に「積層痕」と呼ばれる微細な段差が残り、強度や表面の滑らかさに課題が生じることがありました。
これに対し、近年研究が進む「体積積層造形(Volumetric Additive Manufacturing: VAM)」は、全く異なる原理に基づいています。代表的な手法であるCAL(Computed Axial Lithography)では、光で硬化する液体樹脂(フォトポリマー)を満たした容器に、様々な角度から特定のパターンの光を連続的に照射します。これは医療で用いられるCTスキャンの原理を逆に応用したもので、樹脂内の特定領域の光の吸収量がしきい値に達した部分だけが、一括で硬化して3次元形状を形成します。層を積み重ねるプロセスが存在しないため、理論上は極めて高速な造形が可能であり、また積層痕のない滑らかな表面を持つ造形物が得られます。
CAL技術の課題と新たな化学的アプローチ
この革新的なCAL技術ですが、実用化に向けてはいくつかの課題がありました。特に、造形プロセス中に樹脂の硬化反応を精密に制御することが難しく、使用できる材料の種類が限られたり、内部応力による変形や精度の低下が生じやすいという点が挙げられます。高速で複雑な形状を造形できても、材料の機械的特性が不十分であれば、その用途は外観確認用のモックアップなどに限定されてしまいます。
今回注目される研究では、この課題を化学的な側面から解決するアプローチが取られました。具体的には、RAFT(Reversible Addition-Fragmentation Chain-transfer)重合として知られる精密な化学反応制御技術を、CALのプロセスに組み込んだのです。RAFT重合は、樹脂が硬化する際の分子の繋がり方を巧みにコントロールする役割を果たします。これにより、硬化反応の速度を均一に保ち、内部で発生する応力を低減させることが可能になります。結果として、これまでCALでの利用が難しかった、より高強度で靭性に優れた材料の適用や、寸法精度の高い安定した造形が期待できるようになります。
新技術がもたらす具体的なメリット
RAFT重合技術の導入は、CALという造形手法に「高速性」や「滑らかな表面」といった特長に加え、「高機能材料の適用」という新たな価値をもたらします。これにより、単なる試作品の製作にとどまらず、実用に耐えうる強度や耐久性を持った最終製品(エンドユースパーツ)の製造も視野に入ってきます。
例えば、従来は切削加工や射出成形でしか製造できなかったような、機械的強度が求められる機能部品や治具などを、オンデマンドで迅速に生産できる可能性があります。また、積層痕がないという特長は、流路が複雑に入り組んだ流体デバイスや、表面の滑らかさが性能を左右する光学部品などの製造においても、大きな利点となるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の技術的進展は、日本の製造業にとっていくつかの重要な示唆を含んでいます。
1. 超高速プロトタイピングによる開発サイクルの革新
VAM技術の高速性は、製品開発における試作・検証のサイクルを劇的に短縮します。設計変更のたびに金型修正や切削加工プログラムの変更を行っていた従来プロセスと比較し、圧倒的なスピードで現物での評価が可能となり、開発全体のリードタイム短縮と品質向上に寄与すると考えられます。
2. 少量多品種生産・補修部品製造の新たな選択肢
材料物性の向上により、最終製品への応用範囲が広がります。特に、市場の要求が多様化する中での少量多品種生産や、製造中止となった製品の補修部品をオンデマンドで供給するサービスなど、新たなビジネスモデルの構築にも繋がる可能性があります。
3. 材料開発との連携の重要性
この技術の真価を発揮するためには、造形装置だけでなく、目的に応じた特性を持つ光硬化性樹脂の開発が不可欠です。装置メーカーと化学材料メーカーとの緊密な連携、あるいは自社内での材料開発能力の保有が、将来的な競争力を左右する重要な要素となるでしょう。
4. 実用化に向けた冷静な視点
一方で、この技術はまだ研究開発の段階にあり、すぐに現場のあらゆる製造プロセスを置き換えるものではありません。造形可能なサイズや材料の種類、装置のコスト、運用ノウハウの蓄積など、実用化に向けては依然として多くの課題が存在します。自社の製品や生産プロセスにとって、この技術がどのような価値をもたらすのかを長期的な視点で見極め、技術動向を注視していく姿勢が求められます。


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