航空宇宙分野の電気配線システムに特化した中国のスタートアップ企業が、自社開発のデジタルプラットフォームにより、設計から製造までのリードタイムを3分の1に短縮しました。この事例は、多品種少量生産における設計と製造の連携という、日本の製造業にも通じる重要な課題への示唆を与えてくれます。
航空宇宙分野における電気配線システムの複雑性
航空機やロケットに搭載される電気配線相互接続システム(EWIS: Electrical Wiring Interconnection System)は、単なる電線の束ではありません。数千本に及ぶケーブル、コネクタ、固定具などが複雑に組み合わさり、機体の隅々まで張り巡らされる、いわば「神経網」です。その製造は、機種ごとに仕様が異なる典型的な多品種少量生産であり、極めて高い信頼性とトレーサビリティが求められます。これは、日本の特殊車両や産業機械向けのワイヤーハーネス製造現場が抱える課題と共通する点も多いと言えるでしょう。
設計と製造の分断がもたらす非効率
中国のスタートアップ企業、Beichen Aerospace社(贝辰航天)が着目したのは、このEWIS製造における長年の課題でした。従来、多くの現場では、設計部門が作成した図面をもとに、生産技術部門がExcelなどを用いて手作業で工程計画や作業指示書を作成していました。このプロセスは時間がかかるだけでなく、人的ミスを誘発しやすく、設計変更への迅速な対応も困難でした。結果として、長いリードタイムや品質のばらつき、コスト増といった問題を引き起こしていました。
独自開発システムによる一気通貫のデジタル管理
この課題を解決するため、同社はEWISの設計から生産管理までを一元化する独自のデジタルシステム「Chenshu」を開発しました。このシステムは、設計データ(CADデータなど)を直接取り込み、それを自動で解析します。そして、必要な部品リストの作成、各工程の作業手順の生成、生産スケジューリング、品質検査項目までを自動で計画・指示する機能を持ちます。
これにより、従来は人の経験と勘に頼っていた工程設計や段取りがデジタル化・標準化されました。現場の作業者は、タブレット端末などで常に最新の正しい作業指示を確認でき、製造記録や品質データもリアルタイムでシステムに蓄積されます。設計変更が発生した場合も、その影響が即座に製造現場の指示に反映されるため、手戻りやミスの発生を大幅に抑制できるのです。
デジタル化がもたらした具体的な成果
このシステムの導入により、Beichen Aerospace社は、設計から納品までの平均サイクルタイムを従来の3ヶ月から1ヶ月へと、3分の1に短縮することに成功しました。これは、単に作業が速くなっただけでなく、設計・生産技術・製造・品質保証といった部門間の情報伝達ロスがなくなり、プロセス全体が最適化された結果です。また、全ての作業と検査の記録がデジタルで紐づけられるため、航空宇宙分野で不可欠な厳格なトレーサビリティ要件にも容易に対応できる体制を構築しています。
日本の製造業への示唆
このBeichen Aerospace社の事例は、日本の製造業、特に多品種少量生産を手掛ける企業にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. 設計と製造のデータ連携の重要性
製造現場の効率化は、製造工程内だけの改善では限界があります。設計情報をいかにスムーズに、かつ正確に製造現場に伝達するかが鍵となります。設計データ(3D CADなど)を正として、製造BOMや工程設計、作業指示が連動する「デジタルスレッド」の構築は、今後の競争力を左右する重要なテーマです。
2. 部分最適から全体最適へのシフト
多くの現場では、依然として部門ごとにExcelなどのツールを用いた部分最適な管理が行われています。しかし、本事例のように、設計から製造、品質保証までを一つのプラットフォームで管理することで、部門間の壁を取り払い、プロセス全体の最適化とリードタイム短縮を実現できる可能性があります。
3. ドメイン知識を活かしたDXの推進
同社が成功した背景には、創業者たちが持つ航空宇宙分野の深い業界知識(ドメイン知識)があります。自社の製品やプロセスの特性を深く理解した上で、どこをデジタル化すれば最も効果的なのかを見極めることが重要です。汎用的なシステムの導入だけでなく、自社の強みや課題に特化したツールの開発や導入も視野に入れるべきでしょう。
特定の産業分野における深い課題を、デジタル技術で解決しようとする専門的なスタートアップの動きは、今後ますます活発になると考えられます。自社の課題解決のために、こうした外部の新しい技術やサービスを積極的に活用していく視点も、これからの工場運営において不可欠となるでしょう。


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