アフリカ南部のジンバブエで、国連の支援を受けた国家レベルのデータシステム整備が進められています。一見、日本の製造業とは縁遠いニュースに思えますが、その背景にある課題と目的は、我々が工場や企業全体で直面するデータ活用の問題と深く通底しています。
国家レベルで進むデータシステム統合の動き
先日、ジンバブエのメディアは、同国の「第4次国家統計開発戦略(NSDS IV)」が国連の支援を受けて本格化すると報じました。この戦略の目的は、政府の各省庁がそれぞれに収集・管理している公式統計データの作成、管理、調整の仕組みを指導し、国全体のデータシステムを強化することにあります。これは、信頼性の高いデータに基づいて政策を立案・評価する、いわゆるデータドリブンな国家運営への移行を目指す取り組みと言えるでしょう。
企業経営と国家運営に共通する「データサイロ」の課題
このジンバブエの事例は、私たち製造業にとっても決して他人事ではありません。国家が省庁間のデータの壁を乗り越えようとしているのと同様に、多くの企業が部門間のデータの壁、すなわち「データサイロ」の問題に直面しているからです。例えば、生産管理部門の持つ生産実績データ、品質管理部門の持つ不良品データ、設備保全部門の持つ保全履歴データ、購買部門の持つ調達データなどが、それぞれ異なるシステムで管理され、容易に連携できない状況は多くの工場で見られます。
このような状態では、例えば「特定のサプライヤーから調達した部品を使った製品は、どの生産ラインで、どのような設備稼働状況の時に、不良率が高まるのか」といった、部門を横断した複合的な分析が困難になります。結果として、経験や勘に頼った部分的な改善に留まり、工場全体の最適化や、より根本的な問題解決に至らないケースが少なくありません。国家が正確な統計なしに適切な政策を打てないように、企業もまた、統合された信頼性の高いデータなしに、的確な経営判断を下すことは難しいのです。
データ基盤整備における「目的」の重要性
ジンバブエの取り組みが「国家戦略」として位置づけられている点は、特に重要です。これは、単にITシステムを導入することが目的ではなく、「信頼できるデータに基づいた、より良い国づくり」という明確な上位目標があることを示しています。製造業においても同様のことが言えます。IoTセンサーを導入してデータを集めることや、新しいシステムを導入すること自体が目的化してしまうと、現場はデータ入力の負担だけが増え、活用されないデータが蓄積されていくだけに終わってしまいます。
「歩留まりを1%改善する」「設備の予知保全を実現し、突発停止をゼロにする」「サプライチェーン全体のリードタイムを10%短縮する」といった、具体的で測定可能な経営目標をまず設定し、その達成のためにどのようなデータが必要で、それをどのように収集・分析するのかを設計することが、データ活用の本来の姿です。全社的な目的意識の共有があって初めて、部門の壁を越えたデータ連携への協力も得られやすくなるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のジンバブエの事例は、国家という大きな組織がデータ基盤の整備に乗り出す際の課題と視点を示しており、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
1. 全社横断のデータ戦略を策定する
各部門の個別の取り組みに任せるのではなく、経営層が主導して、会社全体の経営課題解決に資するデータ戦略を策定することが不可欠です。どのデータを「正」とし、どのように管理・活用していくのか、全社的なビジョンと方針を明確にする必要があります。
2. データガバナンスの体制を構築する
国家が統計法規を整備するように、企業内でもデータの定義、収集ルール、管理責任者、アクセス権限などを定めた「データガバナンス」の仕組みを構築することが重要です。これにより、データの品質と信頼性が担保され、組織全体で安心してデータを活用できる基盤が整います。
3. まずは目的ありきでスモールスタートを切る
壮大な全社システムを最初から目指すのではなく、まずは特定の経営課題(例:特定ラインの品質改善)を解決するために必要なデータは何かを考え、部門横断の小さなチームでデータ分析と改善活動を試みる「スモールスタート」が現実的です。その成功体験を積み重ね、横展開していくことで、データ活用の文化が組織に根付いていきます。
国家運営であれ企業経営であれ、複雑化する環境の中で的確な意思決定を行うためには、信頼できるデータという羅針盤が不可欠です。遠い国のニュースも、自社の足元を見つめ直す良いきっかけとなるのではないでしょうか。


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