米国の偽造医薬品対策法案に学ぶ、製造機械の不正利用リスクとサプライチェーン管理の重要性

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米国で、偽造医薬品の製造に使用される機械そのものを標的とする法案が提出されました。この動きは、法規制が製品だけでなく、その「製造設備」にまで及ぶ可能性を示唆しており、日本の製造業にとっても重要な論点を含んでいます。

米国の法規制に見る「製造」へのアプローチ

米国フロリダ州マイアミ市などで、違法な偽造錠剤の蔓延が深刻な社会問題となっています。これに対し、新たに「PRESS法」と呼ばれる法案が提出されました。この法案の特筆すべき点は、完成品である偽造薬の流通を取り締まるだけでなく、その製造工程、特に使用される「打錠機(タブレットプレス機)」などの製造機械を直接的な規制対象としていることです。法執行機関が違法な製造拠点を閉鎖しやすくすることを目的としており、問題の根源である「製造能力」を断つというアプローチが取られています。

自社製品の「意図せざる用途」というリスク

この米国の事例は、日本の製造業、特に産業機械や工作機械、汎用部品などを手掛ける企業にとって示唆に富んでいます。自社が正規の目的で開発・製造・販売した製品が、購入者の手によって意図せず違法な目的や不正な用途に転用されるリスクは、決してゼロではありません。例えば、高性能な工作機械が兵器部品の製造に、あるいは化学プラント用の機器が違法薬物の合成に、といったケースが考えられます。こうした事態は、企業の社会的信用を著しく損なう「レピュテーションリスク」に直結するだけでなく、意図せずとも法的な責任を問われる可能性も否定できません。

サプライチェーン全体で求められる管理体制

このようなリスクに対応するためには、製品のライフサイクル全体を見据えた管理体制の強化が求められます。特に重要なのが、販売先や最終的な使途を確認する手続きです。輸出管理規制で求められる「用途確認」や「需要者確認」は、国内販売においても応用すべき考え方と言えるでしょう。誰に、どのような目的で販売するのかを可能な限り把握し、少しでも疑念があれば取引を再検討する慎重さが不可欠です。また、これは販売時に限りません。中古市場への流通や、廃棄後の機械が不正に再生・利用される可能性も考慮し、サプライチェーン全体でのトレーサビリティを確保していく視点が重要となります。自社が調達する中古設備についても、その来歴を十分に確認するデューデリジェンスが求められる時代と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の米国の法案は、直接的には米国内の薬物問題への対策ですが、その根底にある思想は日本の製造業にも通じるものです。以下に、我々が実務上、改めて認識すべき点を整理します。

1. 製品の不正転用リスクの認識:
自社の製品(特に、汎用性の高い機械や部品)が、本来の目的から逸脱して社会に害をなす形で使用される可能性を、経営リスクの一つとして明確に認識する必要があります。

2. 販売・輸出管理プロセスの強化:
顧客審査(Know Your Customer)の考え方を徹底し、販売先や最終用途の確認プロセスを形骸化させず、実効性のあるものとして運用することが重要です。特に海外への輸出においては、該非判定だけでなく、用途や需要者の実態把握に一層の注意が求められます。

3. サプライチェーンの健全性確保:
製品を「作って売る」だけでなく、その後の流通や廃棄に至るまで、製品ライフサイクル全体での管理意識を持つことが望まれます。これは、自社が購入する設備や部品の出所を確認する姿勢にも繋がります。

4. 技術者としての社会的責任:
自らが開発・設計した技術や製品が、社会にどのような影響を与えうるかを常に意識し、悪用を防ぐための技術的な工夫や倫理観を持つことも、これからの技術者には不可欠な要素となるでしょう。

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