偽造医薬品問題から学ぶ、サプライチェーンにおけるロット管理の死角とトレーサビリティの進化

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ナイジェリアで正規のロット番号を持つ偽造医薬品が発見された一件は、我々日本の製造業にとっても他人事ではありません。この事例は、従来のロット管理が抱える脆弱性と、サプライチェーン全体での製品追跡(トレーサビリティ)の重要性を改めて浮き彫りにしています。

事件の概要:正規ロット番号を悪用した偽造品

2026年、ナイジェリアの規制当局は、同国内で流通していた抗生物質「オーグメンチン625mg錠」の偽造品に関する警告を発表しました。注目すべきは、この偽造品に印字されていたバッチ番号(ロット番号)が、過去に正規に供給された製品のものと完全に一致していた点です。しかし、当局の調査により、製品の包装や錠剤そのものに製造上の一貫性がなく、品質が正規のものとは異なることが判明しました。

この事例が示すのは、ロット番号という情報そのものがコピーされ、悪用されるリスクです。従来、ロット管理は製造工程の追跡や、万が一の製品リコール時に影響範囲を特定するための重要な仕組みとして機能してきました。しかし、単に番号を照合するだけでは、巧妙に作られた偽造品を市場から排除することが困難になりつつあることを、この事件は物語っています。

ロット管理から個体管理(シリアライゼーション)へ

ロット番号は、いわば「クラス名」のようなもので、同じロットに属する製品はすべて同じ番号を持ちます。これがコピーされてしまうと、本物と偽物の区別がつきにくくなります。この課題に対し、医薬品業界など一部で導入が進んでいるのが「シリアライゼーション」、すなわち製品一つひとつに固有のシリアル番号を割り当てる「個体管理」です。

個体管理は、製品を「クラス」ではなく「個人」として識別するようなものです。一つひとつの製品にユニークなID(例:QRコードやデータマトリックスに格納されたシリアル番号)を付与し、そのIDをデータベースで管理します。これにより、流通の各段階で製品をスキャンすれば、その個体が「本物」であるか、そして「正規のルートを辿ってきたか」を検証することが可能になります。もし同じシリアル番号が複数箇所で同時にスキャンされれば、それは偽造の疑いがあるという警告にもなります。

日本の製造現場における対策の視点

この問題は、医薬品に限らず、自動車部品、電子部品、ブランド品など、あらゆる製品において起こり得るものです。特にグローバルにサプライチェーンが広がる現代において、自社の管理が及ばない領域で偽造品が紛れ込むリスクは常に存在します。日本の製造業として、ブランド価値と製品の安全性を守るためには、以下のような視点での対策が求められます。

まず、偽造防止技術の導入です。目に見えるホログラムや特殊インクといった物理的な対策に加え、前述のシリアライゼーションのようなデジタル技術の活用が不可欠です。製品や梱包にユニークなQRコードを印字し、それを読み取ることで真贋判定やトレーサビリティ情報にアクセスできる仕組みは、比較的身近な技術で実現できます。

次に、サプライチェーン全体の情報連携です。自社の製造記録だけでなく、部材を供給するサプライヤーから、製品を届ける物流業者、そして販売店に至るまで、製品個体の情報を連携させることが理想的です。ブロックチェーン技術などを活用すれば、改ざんが困難な形で流通履歴を記録・共有し、サプライチェーン全体の透明性と信頼性を高めることも可能になります。

日本の製造業への示唆

今回の事例から、我々日本の製造業が学ぶべき要点と実務的な示唆を以下に整理します。

1. ロット管理の限界を認識する:
従来のロット管理は、あくまで製造工程内やリコール対応を主眼とした仕組みであり、悪意のある偽造に対しては脆弱な側面があることを認識する必要があります。ロット番号は容易にコピーされ得るという前提に立ち、対策を検討することが重要です。

2. 個体レベルでのトレーサビリティへの移行:
今後のサプライチェーン管理では、ロット単位から「個体単位」での追跡・管理(シリアライゼーション)へと軸足を移すことが求められます。これにより、真贋判定の精度が飛躍的に向上し、ブランド保護に直結します。

3. サプライチェーン全体の可視化と連携:
自社工場内だけでなく、原材料の調達から顧客の手元に届くまでの全工程を可視化する仕組みが不可欠です。信頼できるサプライヤーや物流パートナーとの情報連携を密にし、サプライチェーン全体で偽造品のリスクに対応する体制を構築することが、最終的に企業の競争力を高めます。

4. デジタル技術の戦略的活用:
QRコード、RFID、ブロックチェーンといったデジタル技術は、もはや特別なものではなく、サプライチェーンの信頼性を担保するための実用的なツールです。自社の製品や事業規模に適した技術を見極め、段階的にでも導入を検討していくことが、将来のリスクに対する有効な投資となるでしょう。

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