米国の最高裁判所で審理されているジェネリック医薬品の訴訟は、自社製品が設計・想定外の方法で使用された場合の製造物責任(PL)の範囲を問うものとして注目されています。この事例は、日本の製造業にとっても、製品の安全設計や指示・警告のあり方を再考する上で重要な示唆を与えてくれます。
米国の医薬品訴訟が示す「製造物責任」の新たな論点
現在、米国の最高裁判所では、ジェネリック医薬品メーカーの製造物責任に関する重要な裁判が審理されています。争点となっているのは、医師や薬剤師といった専門家の判断により、メーカーが想定していない用途(適応外使用)で処方された医薬品が原因で健康被害が生じた場合、その責任を医薬品メーカーが負うべきか、という点です。
この訴訟は、製造者が直接関与しない、サプライチェーンの下流における専門家の判断や顧客による製品の使われ方に対して、製造者の責任がどこまで及ぶのかという、製造業全般に関わる普遍的な問いを投げかけています。特に、最終製品ではなく中間部材や素材を供給するBtoBの取引が多い日本の製造業にとって、決して他人事ではない事例と言えるでしょう。
製造者の「警告表示義務」とその限界
日本の製造物責任法(PL法)においても、製品の欠陥には「設計上の欠陥」「製造上の欠陥」そして「指示・警告上の欠陥」の三つが定義されています。メーカーは、製品の危険性について予見可能な範囲でユーザーに警告する義務を負います。取扱説明書に「禁止事項」や「注意事項」を詳細に記載するのは、この「指示・警告上の欠陥」を問われないようにするためです。
しかし、今回の米国の事例のように、専門家がその知識に基づいて意図的にメーカーの指示範囲を超えて製品を使用した場合、その結果生じるリスクまでメーカーが予見し、警告することは現実的でしょうか。この訴訟で米最高裁の判事たちがメーカーを保護する方向で考えているという報道は、サプライチェーン上の各主体が、それぞれの専門性に基づいて責任を分担すべきであるという考え方が背景にあると推察されます。つまり、製造者がすべてのリスクを無限に負うわけではない、という一定の線引きが示されようとしているのです。
サプライチェーンにおける責任分担の明確化
この事例は、自社製品が顧客企業によってどのように扱われ、最終製品に組み込まれるのかを把握し、責任範囲を明確にすることの重要性を改めて示しています。例えば、ある特定の温度範囲での使用を想定して開発された電子部品が、顧客の設計判断によってその範囲を超える環境の製品に搭載され、不具合を起こした場合を考えてみましょう。
このような事態を避けるためには、納入仕様書や契約書において、製品の仕様や使用条件の限界、そして禁止事項を明確に記載し、顧客との間で合意を形成しておくことが極めて重要です。単に仕様書を提示するだけでなく、なぜその仕様なのかという技術的な背景も含めて顧客と対話し、リスクに関する認識を共有する努力が、将来の潜在的な紛争を防ぐ防波堤となります。
日本の製造業への示唆
今回の米国の事例から、日本の製造業が実務上得るべき教訓を以下に整理します。
1. 仕様書・取扱説明書の精緻化と「想定外」の明示
予見可能な誤使用だけでなく、「想定されるが保証範囲外となる使用法」や「禁止される用途」をより具体的に、かつ明確に文書化することが求められます。特にBtoB取引においては、自社製品が組み込まれる最終製品の用途や環境を可能な限り把握し、仕様の限界点を顧客と共有するコミュニケーションが不可欠です。
2. サプライチェーン全体でのリスクコミュニケーション
部品メーカーから完成品メーカー、販売代理店や施工業者に至るまで、製品の正しい使用方法や潜在的リスクに関する情報を共有し、契約等を通じて責任分担を明確化しておくことが重要です。特に輸出製品については、現地の法規制や司法判断の傾向を十分に理解した上で、リスク対策を講じる必要があります。
3. 設計・開発プロセスの記録保管
なぜその設計仕様にしたのか、どのような使用を想定し、どのような使用を「想定外」と判断したのか。その判断根拠となる議事録や技術文書、評価データなどを体系的に記録・保管しておくことは、万一の訴訟の際に、自社が適切な開発プロセスを経て製品を市場に出したことを証明する重要な証拠となります。
4. PL保険の適用範囲の再確認
自社の製品が関わるサプライチェーンの構造や、市場での実際の使われ方を踏まえ、現在加入している製造物責任保険(PL保険)の補償範囲が適切かを見直す良い機会です。特に、海外での訴訟リスクを考慮し、補償内容を精査することが望まれます。


コメント