英国の映像制作会社における人事ニュースは、一見すると日本の製造業とは無関係に思えるかもしれません。しかし、その役職の責任範囲は、現代の製造業が直面する課題を解決する上で重要な示唆を与えてくれます。
異業種における「生産」の責任者
先日、英国で数々の著名なテレビドラマを手掛ける映像制作会社が、新しい「Director of Production」を任命したというニュースが報じられました。この役職名は、日本の製造業に置き換えれば「生産本部長」や「製造部長」に相当する、生産活動全体の最高責任者と言えるでしょう。異業種の人事情報ではありますが、その職務内容に注目することで、我々自身のものづくりの在り方を見つめ直すきっかけとなります。
「開発から納品まで」を統括するということ
特筆すべきは、この役職が「開発から納品まで(from development through to delivery)」の生産管理全般を監督する、と定義されている点です。これは、単に撮影現場(製造工程)を管理するだけでなく、企画・脚本開発(製品開発・設計)の段階から、編集・仕上げ(後工程・検査)、そして放送局への納品(出荷)に至るまで、バリューチェーン全体を一気通貫で管理することを意味します。日本の製造業においても、設計、調達、製造、品質保証、物流といった各部門が縦割りになりがちですが、本来これらは分断されてはならない一連のプロセスです。
映像制作の現場では、企画段階での予算見積もりが撮影スケジュールや使用機材を制約し、それが最終的な作品の品質と納期に直結します。これは、製造業において設計段階で部品選定や工程設計がコストや品質の8割を決めるとされる「フロントローディング」の考え方と全く同じ構造です。開発から納品までの全体像を把握し、部門間の調整を行い、QCD(品質・コスト・納期)の最適化を図る。こうした全体最適の視点を持つ責任者の存在が、企業の競争力を大きく左右することは論を俟ちません。
これからの生産リーダーに求められる視点
このような広範な責任を担うリーダーには、特定の工程に関する深い専門知識だけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰できる視野の広さが不可欠です。各部門の利害を調整し、会社全体としての目標達成に導く高度なマネジメント能力とリーダーシップが求められます。ともすれば自部門の効率化に偏りがちな現場において、上流から下流までを見渡した意思決定を下せる人材の育成は、多くの企業にとって喫緊の課題ではないでしょうか。今回の異業種のニュースは、我々が目指すべき生産管理責任者の理想像を改めて示しているように思われます。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. 生産責任者の守備範囲の再定義:
製造部長や工場長の役割を、単なる「製造現場の管理者」と捉えるのではなく、製品開発から顧客への納品まで、バリューチェーン全体を統括する責任者として再定義することが重要です。これにより、部門間の壁を越えた全体最適の視点が組織に浸透しやすくなります。
2. サイロ化の弊害と部門横断の仕組みづくり:
開発、生産、品証、営業といった部門間の連携不足は、手戻りやリードタイムの長期化、機会損失の温床となります。全工程を俯瞰する責任者を置くと同時に、S&OP(Sales and Operations Planning)のような部門横断的な会議体を機能させ、情報共有と意思決定の迅速化を図るべきです。
3. 次世代リーダーの育成:
将来の経営幹部候補として、生産部門のリーダーには早期から原価管理やサプライチェーンマネジメント、さらには開発プロセスに関する知識など、幅広い経験を積ませる機会を提供することが不可欠です。ジョブローテーションなどを通じて、自部門以外の工程や業務に対する理解を深めさせ、大局的な視点を養うことが求められます。


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