サウジアラビアの新興航空会社の求人情報に見られる「資産の生産管理」という職務は、一見すると異業種の話に聞こえるかもしれません。しかし、その根底には、製品納入後の価値を最大化しようとする、日本の製造業にとっても示唆に富んだ考え方が存在します。
航空会社が募集する「生産管理」エンジニア
近年、中東で存在感を増している新興航空会社「Riyadh Air」が、「Engineer II Airbus Asset Production Management(エアバス資産の生産管理担当エンジニア)」という職務の募集を行いました。製造業に携わる我々にとって、「生産管理」は自社の工場における生産計画や工程管理を指すのが一般的です。しかし、航空会社がこの言葉を使う時、それはどのような意味を持つのでしょうか。
この場合の「生産管理」とは、文字通り航空機という巨大で高価な「資産(Asset)」を、導入から退役まで、いかに効率的かつ安全に運用し、その価値を最大化するかを管理する業務を指していると考えられます。航空機は一度購入すれば20年、30年と運用される長寿命の製品です。その長い期間にわたる整備、部品交換、改修といった一連の活動全体を、一つの「生産プロセス」として捉えているのです。
「資産の生産管理」が意味するもの
航空会社における「資産の生産管理」の具体的な業務は、我々製造業の工場運営と多くの点で類似しています。例えば、以下のようなものが含まれるでしょう。
- 整備計画の立案と最適化:飛行時間やサイクルに基づいた定期整備や、不具合発生時の臨時整備の計画を立てます。これは工場の生産計画や段取り替えの最適化に相当します。
- 部品のサプライチェーン管理:世界中にちらばるサプライヤーから、必要な交換部品を適切なタイミングで調達し、在庫を管理します。まさに製造業の調達・購買や在庫管理そのものです。
- 改修プロジェクトの管理:客室のアップグレードや新しい航法機器の搭載といった改修プロジェクトの工程、予算、品質を管理します。これは工場の新ライン導入や設備改善プロジェクトに通じます。
- 技術文書とコンプライアンス管理:航空機メーカーからの技術通報や、航空当局の規制変更に対応し、常に機体が安全基準を満たしている状態を維持します。これは製造業における品質保証や規格対応の業務と本質的に同じです。
このように、対象が「工場で作る製品」から「顧客先で稼働する製品(資産)」に変わっただけで、その管理手法や考え方の根幹は、生産管理のそれと極めて近いことがわかります。
製品ライフサイクル全体を俯瞰する視点
この考え方は、製品を「作って売る」だけで終わらせず、納入後の保守・運用といったサービスで収益を上げる「サービタイゼーション」の潮流とも深く関係しています。自社が納入した製品群を一つの「生産ライン」と見なし、その稼働率や性能を維持・向上させることが、顧客満足度と新たな収益機会につながるのです。
特に、建設機械、発電設備、鉄道車両、医療機器といった、長期間にわたって高い信頼性が求められる製品を製造している企業にとっては、この「資産の生産管理」という視点は大きなヒントとなるでしょう。IoTを活用して製品の稼働データを収集・分析し、故障を予知して最適なタイミングで保守部品を送る、といった先進的なサービスは、まさにこの思想を具現化したものと言えます。
日本の製造業への示唆
今回の航空会社の求人情報から、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. 「生産管理」の概念の拡張
自社の工場内だけでなく、市場に出た自社製品のライフサイクル全体を管理の対象と捉え直す視点が重要です。顧客の手元で製品がどのように価値を生み出しているかを「生産プロセス」と見なすことで、新たな改善点やビジネスチャンスが見えてくる可能性があります。
2. サービス事業への応用
保守・メンテナンス事業を、体系的な「生産管理」の手法を用いて見直すことが有効です。部品の需要予測、サービス担当者の要員計画、作業の標準化などを進めることで、サービス事業の品質と収益性を大きく向上させることができるでしょう。
3. データ活用の重要性
稼働中の製品から得られるデータを活用し、より精度の高い整備計画や部品供給計画を立案することが不可欠です。これは、スマートファクトリーで生産データを活用して製造プロセスを最適化するのと同じ発想であり、設計・製造から保守サービスまで一貫したデータ基盤の構築が求められます。
4. 俯瞰的な視野を持つ人材の育成
これからの製造業では、設計や製造といった特定の領域だけでなく、製品が顧客に価値を提供し続ける全期間を俯瞰し、管理できる人材がますます重要になります。異業種の事例からも学び、自社の事業にどう活かせるかを考える姿勢が、企業の持続的な成長を支えることになるでしょう。


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