米国の食品業界では、収益性と生産効率向上のため製品SKU(Stock Keeping Unit)を絞り込む動きが加速しています。本記事では、この背景にあるサプライチェーンやコストの課題を解説し、日本の製造業が自社の製品ポートフォリを最適化する上での実務的な視点を提供します。
製品SKUの絞り込みと在庫戦略の転換
先般開催されたフードマニュファクチャリングサミットにおいて、専門家から米国の食品メーカーが製品のSKU(最小管理単位)を削減し、在庫補充に関してもより選択的なアプローチを取るようになっているとの指摘がありました。これは、単なる一時的なトレンドではなく、近年のサプライチェーンの混乱やコスト構造の変化に対応するための、戦略的な意思決定と捉えるべきでしょう。
なぜ今、SKU削減が重要なのか
製品ラインナップの多様化は、顧客の多様なニーズに応える一方で、製造現場の複雑化を招きます。特に日本の製造業が長年課題としてきた多品種少量生産は、段取り替えの頻発による生産効率の低下や、製品ごとの原材料・仕掛品・完成品在庫の増加といった問題を内包しています。米国の食品業界で起きていることは、こうした課題に対する一つの明確な回答と言えます。
この背景には、いくつかの要因が考えられます。
- コスト圧力の増大:原材料費、エネルギーコスト、人件費、物流費など、あらゆるコストが上昇する中で、利益率の低いSKUを維持し続けることが経営の重荷となっています。貢献利益の低い製品を整理し、経営資源を収益性の高い主力製品に集中させる必要性が高まっています。
- サプライチェーンの不確実性:コロナ禍以降、サプライチェーンは依然として不安定な状況にあります。SKUが多ければ多いほど、管理すべき原材料の種類も増え、欠品リスクや調達の複雑性が増大します。SKUを絞ることで、サプライチェーンの強靭性を高める狙いがあります。
- 生産効率の追求:SKUの削減は、生産計画の平準化を容易にし、段取り替え時間を削減します。これにより、製造ラインの実質的な稼働率が向上し、単位あたりの製造コストを低減させることが可能になります。これは、人手不足が深刻化する日本の現場にとっても重要な視点です。
「削減」ではなく「最適化」という視点
ここで重要なのは、SKUの整理を単なる「削減」ではなく、製品ポートフォリオの「最適化」と捉えることです。どの製品を残し、どの製品を終売にするかという判断は、販売数量だけでなく、収益性、ブランドへの貢献度、顧客との関係性、将来性といった多面的な評価軸に基づいて、慎重に行う必要があります。
そのためには、営業部門が持つ市場の情報と、製造・管理部門が持つコストや生産性のデータを突き合わせ、全部門が納得できる客観的な基準を設けることが不可欠です。例えば、ABC分析などを用いてSKUを分類し、各製品が事業全体に与える影響を可視化することは、有効な手段の一つでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の米国の動向は、日本の製造業、特に多品種生産を宿命とする多くの企業にとって、自社の製品戦略を再点検する良い機会となります。以下に、実務上の要点を整理します。
- 製品ポートフォリオの定期的評価:年に一度など、定期的に全SKUの収益性や戦略的重要性を評価する仕組みを構築することが求められます。新製品開発と並行して、既存製品の「プロダクト・プルーニング(製品の枝払い)」を経営の重要課題として位置づけるべきです。
- データに基づいた意思決定文化の醸成:勘や経験、あるいは営業部門の声の大きさだけでなく、販売、生産、在庫、財務といった客観的なデータを統合的に分析し、意思決定を行う文化を育てることが重要です。SKUごとの真の貢献利益を把握する努力が、その第一歩となります。
- 部門横断での連携強化:製品ポートフォリオの最適化は、特定部門だけで完結するものではありません。営業、マーケティング、開発、生産、品質管理、サプライチェーンといった全部門が、会社全体の利益最大化という共通の目標に向かって連携する体制が不可欠です。
- 「減らす」ことへの経営のコミットメント:製品を増やすことには積極的でも、減らすことには抵抗が伴いがちです。しかし、限られた経営資源を有効活用するためには、不採算製品や管理コストに見合わない製品を整理する勇気が不可欠であり、これには経営層の強いリーダーシップが求められます。
自社の製品ラインナップが、現在の市場環境や経営環境において本当に最適化されているのか。この問いに向き合うことが、持続的な成長と収益性確保の鍵となるでしょう。


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