製造業において「モノ売り」から「コト売り」への転換、すなわちサービタイゼーションの重要性が増しています。この変革の鍵を握るデジタル技術の役割について、オペレーションと戦略という二つのレベルで整理した最新の研究が発表され、我々実務者にとっても示唆に富む内容となっています。
研究の背景:なぜ今、サービタイゼーションとデジタル技術か
製品のコモディティ化やグローバルな競争激化が進む中、多くの日本の製造業が、製品販売に加えてサービスを組み合わせることで付加価値を高める「サービタイゼーション」に活路を見出そうとしています。その実現において、IoTやAIといったデジタル技術が不可欠であることは論を俟ちませんが、具体的に「デジタル技術がサービタイゼーションをどのように促進するのか」という問いに対する体系的な理解は、これまで必ずしも明確ではありませんでした。この度、オペレーションズ・マネジメント分野の権威ある学術誌『International Journal of Operations & Production Management』に掲載された論文は、この問いに明確な整理軸を提示しています。
デジタル技術の二つの役割:オペレーションレベルと戦略レベル
本研究では、過去の多数の研究を体系的に分析した結果、サービタイゼーションにおけるデジタル技術の役割を大きく二つのレベルに分類できると結論付けています。それは「オペレーションレベル」と「戦略レベル」です。
1. オペレーションレベルでの役割
これは、既存のサービス提供プロセスを効率化・自動化するためのデジタル技術活用を指します。例えば、納入した製品にセンサーを取り付け、稼働状況を遠隔監視することで保守点検のタイミングを最適化したり、故障を予知したりする「予知保全」が典型例です。これにより、サービスコストの削減やサービス品質の安定化が図れます。これは、日本の製造現場が長年培ってきた「カイゼン」活動の延長線上にある考え方であり、比較的取り組みやすい領域と言えるでしょう。
2. 戦略レベルでの役割
一方、こちらはデジタル技術を活用して、新たなサービス機会を創出し、顧客との関係性そのものを再定義する役割を指します。例えば、製品の稼働データから顧客の生産プロセスの非効率な点を分析し、改善策を提案するコンサルティングサービスを提供する。あるいは、製品を「所有」してもらうのではなく、製品が生み出す価値(例えば、圧縮空気や加工時間)に対して課金する従量課金制(サブスクリプション)モデルを導入する、といった例が挙げられます。これは単なる効率化にとどまらず、企業のビジネスモデルそのものを変革する、より高度な取り組みです。
二つのレベルの関係性
この二つのレベルは、全く別個のものではありません。むしろ、多くの企業にとって、段階的に発展していく関係にあると捉えるのが実務的でしょう。まず、オペレーションレベルで製品の遠隔監視やデータ収集の仕組みを構築し、サービス業務の効率化を図ります。そして、そこで蓄積された豊富なデータを分析することで、これまで見えていなかった顧客の課題やニーズを深く理解し、それを基に戦略レベルの新しいサービス、新しいビジネスモデルを構想・展開していく、という流れが考えられます。現場の地道なデータ活用が、経営レベルの戦略的な意思決定に直結するのです。この両輪をいかに上手く回していくかが、サービタイゼーション成功の鍵となります。
日本の製造業への示唆
今回の研究成果は、デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の掛け声のもとで様々な取り組みを進める日本の製造業にとって、自社の現在地を確認し、次の一手を考える上で有益な視点を提供してくれます。以下に、実務への示唆を整理します。
- 自社の取り組みの棚卸し:現在、自社で進めているデジタル技術の活用は、「オペレーションレベル」の効率化が主目的か、それとも「戦略レベル」の価値創造を目指しているのか。このフレームワークを用いて自社の取り組みを整理し、目的を明確にすることが重要です。
- 段階的な発展の構想:いきなり戦略レベルの高度なサービスを目指すのではなく、まずはオペレーションレベルでの足場固めから始めるというアプローチも有効です。現場でのデータ収集・活用を通じてノウハウを蓄積し、それを将来の戦略的なサービス展開に繋げるという長期的な視点が求められます。
- 部門横断の連携強化:オペレーションレベルの改善は製造や保守サービス部門が中心となりますが、戦略レベルのサービスを創出するには、営業、企画、開発、そして経営層まで含めた全社的な協力体制が不可欠です。デジタル技術によって得られるデータを、いかに組織全体で共有し、価値に変えていくかが問われます。
- 顧客価値起点の思考:デジタル技術はあくまで手段です。重要なのは、これらの技術を使って「顧客にどのような新しい価値を提供できるか」を常に問い続けることです。オペレーションレベルの効率化で生まれた余力を、顧客理解を深め、新たな価値を創造する活動に振り向けていくべきでしょう。


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