海外の鉄鋼メーカーによる圧延工場の設備更新に関するニュースは、一見すると遠い世界の出来事かもしれません。しかし、その中で語られる「レベル1」「レベル2」といったオートメーションシステムの概念は、日本の製造業が自社のスマート化を考える上で重要な示唆を与えてくれます。
海外鉄鋼メーカーの設備更新事例
先日、欧州の鉄鋼メーカーであるEMSTEEL社が、線材圧延工場(ワイヤーロッドミル)の近代化改修を行ったという報道がありました。注目すべきは、この更新に「レベル1の基本オートメーションシステム」と、生産管理を支援する「レベル2の長尺圧延プロセスエキスパートシステム」が含まれている点です。この「レベル」という言葉は、工場の自動化や情報システムを構想する上で、非常に重要な考え方を示しています。
オートメーションにおける「レベル」とは何か?
工場の自動化システムは、機能や役割に応じて階層的に整理されます。この階層モデルの代表的なものに、国際標準規格ISA-95(日本ではJIS C 1995)があります。このモデルでは、生産活動が以下のレベルに分類されています。
レベル0: 現場の物理的なプロセスそのもの。センサーやモーター、バルブといったフィールド機器がこれにあたります。
レベル1: 個々の設備を直接、自動制御する領域。PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やDCS(分散制御システム)が担い、センサーからの情報をもとにアクチュエーターを動かすといった、基本的な自動制御を行います。
レベル2: 複数の設備群を監視・制御(Supervisory Control)し、生産プロセス全体を管理する領域です。SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)やHMI(Human Machine Interface)がここに属し、オペレーターが製造ライン全体の状況を把握し、操作・介入を行うためのシステムです。
レベル3: 製造実行システム(MES: Manufacturing Execution System)の領域。日々の生産計画に基づき、作業指示、実績収集、品質管理、在庫管理など、工場全体の操業を管理します。
レベル4: ERP(Enterprise Resource Planning)に代表される、企業全体の経営資源を管理する領域。販売、会計、人事といった情報と生産情報を連携させ、経営レベルでの意思決定を支援します。
事例から読み解くレベル1とレベル2の役割
この階層モデルに沿ってEMSTEEL社の事例を見ると、その狙いが明確になります。「レベル1の基本オートメーションシステム」とは、圧延機や搬送装置といった個々の設備をPLCなどで確実に自動制御する仕組みを指していると考えられます。これは、いわば自動化の土台となる部分です。
そして、「レベル2のプロセスエキスパートシステム」は、そのレベル1の機器群を統合的に監視・制御し、圧延という一連のプロセス全体を最適化する役割を担います。「エキスパートシステム」という言葉からは、単なる監視だけでなく、熟練技術者の知見やノウハウをロジックとして組み込み、製品の品質や生産性を高めるための高度な制御を行っている可能性がうかがえます。例えば、材料の温度や圧延機の負荷といった様々なパラメータを監視し、最適な圧延速度やロールの圧下量を自動で調整するといった機能が想像されます。
つまり、この設備更新は、個々の機械の自動化(レベル1)と、工程全体の最適化(レベル2)を連携させ、より高度な生産管理を実現しようとするものと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
この事例とオートメーションの階層モデルは、日本の製造業にとっても多くの実務的な示唆を与えてくれます。
1. DX推進における「共通言語」の重要性
工場のスマート化やDXを推進する際、経営層、情報システム部門、製造現場の間で話が噛み合わないことが少なくありません。ISA-95のような階層モデルを「共通言語」として用いることで、どのレベルの話をしているのか、どのシステムがどの役割を担うのかを明確に定義でき、関係者間の認識齟齬を防ぐことができます。
2. 段階的かつ着実なシステム構築
レベル1の基本的な自動制御やデータ収集が不安定なまま、上位のMES(レベル3)やAIによる分析(レベル4)を導入してもうまく機能しません。信頼性の高い現場データがあって初めて、上位システムは価値を生みます。今回の事例のように、まずレベル1とレベル2という現場に近い階層をしっかりと固めるアプローチは、システム構築の王道と言えます。
3. 熟練技術のデジタル化と伝承
「エキスパートシステム」という考え方は、日本の製造業が直面する技術伝承の課題に対する一つの解となり得ます。熟練者が持つ暗黙知を、ルールやロジックとしてレベル2のシステムに組み込むことは、技能の形式知化であり、属人化の解消につながります。これは単なる自動化を超え、企業の競争力を維持・強化するための重要な取り組みです。
今回の事例は鉄鋼業のものでしたが、ここで述べたシステムの階層的な考え方は、組立加工、化学、食品など、あらゆる業種の工場運営に応用できる普遍的なものです。自社の現状のシステムがどのレベルに位置し、次にどこを強化すべきかを考える上で、こうしたフレームワークは有効な羅針盤となるでしょう。


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